この記事でわかること
- DX推進は、ITツールを入れることではありません。仕事のやり方を会社として変えていくことです。
- 社長が最初に決めるのは「何を楽にしたいか」と「最初の1業務」です。専任者がいなくても、兼任の責任者と見る日を決めれば動き出せます。
- 小さく試して数字で見せ、現場に定着するまで外の支援も使う進め方が、従業員10〜50名の会社には現実的です。
DX推進はITツールを入れることではありません。従業員10〜50名の社長が最初の1か月に決める3つと、小さく始める5ステップを解説します。

この記事でわかること
結論として、DXは道具を入れることではなく、仕事のやり方や会社のあり方を変えることです。ツールは、そのための手段のひとつです。
たとえば紙の伝票をパソコンに打ち込むだけなら、今の仕事を速くする「IT化」です。伝票そのものをなくし、受注から請求までの流れを組み替えるところまで進むと、DXに近づきます。社長の仕事は、ツールを選ぶ前に「何を変えたいか」を決めることです。
| 項目 | IT化 | DX |
|---|---|---|
| 目的 | 今の業務を効率化する | やり方・サービス・組織まで変える |
| 変わる範囲 | 一つの作業や部署 | 仕事の流れや会社全体 |
| 社長の役割 | 道具を選んで任せる | 何を変えたいかを決め、旗を振る |
| 身近な例 | 手書きの請求書を表計算ソフトにする | 見積から請求までの流れを見直し、手入力を減らす |
メリットを「社長の困りごとが減ること」で考える方法は、決めること1:何を楽にしたいか(目的)で説明します。
従業員100人以下の企業でDXに取り組む会社は、まだ半分に届きません。取り組まない理由は「メリットが分からない」が最も高く、分からないのは自社だけではありません。
情報処理推進機構(IPA)の調査では、従業員100人以下の企業でDXに取り組んでいる割合は41.6%です。対象は国内企業の経営層や情報システム部門などです。
調査全体の回収は1,799社で、期間は2026年4月17日〜6月12日です。41.6%は、そのうち従業員100人以下の企業での割合です。[出典:IPA(2026)]
別の調査もあります。中小企業基盤整備機構は、全国の中小企業の経営者・経営幹部1,000社にWebで聞いています。調査期間は2025年12月5日〜18日です。
この調査では、DXに「既に取組んでいる」と「取組みを検討している」を合わせて39.1%です。「検討している」を含むため、IPAの数字とは別のものとして見てください。[出典:中小企業基盤整備機構(2026)]
DXに取り組んでいない従業員100人以下の企業では、「自社がDXに取組むメリットがわからない」が54.0%で最も高くなっています。対象は、取り組んでいない企業が挙げた理由です。[出典:IPA(2026)]
つまり、メリットが見えないのは珍しいことではありません。この答えは、比較表と決めること1:何を楽にしたいか(目的)で社長の困りごととして示します。
日本商工会議所・東京商工会議所の調査では、人手不足の対策として「デジタル活用等による省力化」を挙げた企業が40.2%でした。対象は各地商工会議所の会員企業で、調査全体の回答は2,654社です。
調査期間は2026年7月21日〜8月21日です。原文では、企業規模が小さいほど回答数は減るとされています。[出典:日本商工会議所・東京商工会議所(2026)]
中小企業庁の「2026年版 中小企業白書」には、雇用者数の将来推計があります。中小企業の雇用者数は、中位推計で2040年に2018年比で約8%低下します。
低位推計では約16%低下です。働き手が減る前提で仕事を回す準備が、DXを始める理由のひとつになります。[出典:中小企業庁(2026)]
専任者もIT部門もない会社では、推進部門を作る前に、社長が「目的」「最初の1業務」「責任者と見る日」の3つを決めます。この3つが決まれば、最初の1か月の仕事は終わりです。
最初に決めるのは、ツールではなく社長の困りごとです。たとえば「見積書づくりで毎月の残業が増えている」「問い合わせの返信が遅れる」といった困りごとです。
困りごとが減ることが、その会社にとってのメリットです。「メリットが分からない」と感じたときは、まず困りごとを1つ書き出してください。
最初の1業務は、小さく、数字で測れ、現場が毎日触れるものを選びます。たとえば「月末の請求書づくり」のように、かかる時間を測れる仕事です。
全社の業務を一度に変えようとしないでください。失敗しても傷が浅く、うまくいけば周りに見せやすい仕事が向いています。
責任者は専任でなくてかまいません。兼任で、現場の動きが分かる人を1人決めます。
社長が旗を振り、月1回など「進み具合を見る日」を先に決めます。見る日がないと、忙しさの中で後回しになります。
ポイント
ツールを選ぶのは、この3つが決まってからです。順番を逆にすると、導入して終わりになりがちです。
次のチェックリストで、最初の1か月に決め終えたか確かめてください。
決めたあとの進め方は、ステップ1:今の仕事を書き出すから説明します。
小さく始める手順は5つです。1つの業務を試して、効果を数字で見せ、うまくいけば広げます。入口には、始めやすい生成AIの活用が向いています。
中小企業基盤整備機構の調査では、DXの具体的な取組み・検討内容として「AIの活用」は28.4%でした。調査全体は中小企業1,000社です。
前回の調査は14.3%でした。上昇幅は14.1ポイントです。[出典:中小企業基盤整備機構(2026)]
IPAの調査では、生成AIを「導入している」企業は2024年度に22.6%でした。2025年度は44.0%です。これは全規模の企業の数字で、中小企業に限ったものではありません。[出典:IPA(2026)]
まず、社内の仕事を思いつく順に書き出します。きれいにまとめる必要はありません。「誰が、何に、どれくらい時間をかけているか」を、ざっくり書きます。
自社の状況を整理するために、公的機関の自己診断や相談窓口を使う方法もあります。一人で考え込むより、整理が早く進むことがあります。
書き出した仕事の中から、困りごとが大きい順に並べます。基準は、決めること1:何を楽にしたいか(目的)で決めた目的です。
目的に近いものを1つに絞ります。2つ以上同時に始めないのがコツです。
選んだ1つの業務だけで試します。生成AIのように、小さく始めやすい道具から選ぶと負担が軽くなります。たとえば、問い合わせへの返信や見積書の文面の下書きを生成AIに作らせ、人が確認して直します。
最初は、一部の人だけで、期間を決めて試してください。うまくいかなければやめるか、やり方を変える前提で進めます。
試す前と後を、同じ物差しで比べます。たとえば「請求書づくりにかかった時間」を、前後で測ります。
測った結果は、社内に共有します。数字は自社で測るものです。他社の数字を目標にしないでください。
うまくいったやり方を、型として書き残します。次の業務に同じ型をあてはめます。
広げる順番は社長が決めます。広げる前に、現場が困っていないかを確かめてください。つまずきやすい点は、現場に定着しないのはなぜか。社内だけで抱えない進め方で説明します。
導入しても現場に定着しない原因は、ツールより進め方にあることが多いと考えられます。使い方を教える人と、進み具合を見る日を置き、社内だけで抱えないことが大切です。
1つ目は、目的があいまいなまま始めることです。何を楽にしたいかが決まらないと、効果の測り方も決まりません。
2つ目は、ツールを入れて満足することです。導入がゴールになり、使われているかを誰も見なくなります。
3つ目は、現場が使わないことです。「仕事が増える」と感じると、従来のやり方に戻ります。ほかに、古いシステムが残っていることや、費用を回収する見通しが立たないことも、つまずきの原因になります。
注意
ツールを入れただけで終わらせないでください。使い方を教える人と、使われているかを見る日を、導入と同時に決めます。
日本商工会議所・東京商工会議所の調査では、従業員のリスキリングに「必要性を感じるが、取り組みが十分に進んでいない」企業が66.1%でした。対象は各地商工会議所の会員企業で、調査全体の回答は2,654社です。
調査期間は2026年7月21日〜8月21日です。[出典:日本商工会議所・東京商工会議所(2026)]
必要と感じていても、進められない会社は少なくありません。社内の教育で足りない部分は、外の支援を使う考え方があります。
忙しい社長が一人で抱えるより、一緒に進める相手がいたほうが、見る日も続きやすくなります。
Q. DXとIT化は何が違いますか
IT化は今の業務を効率化することです。DXは、やり方や会社のあり方まで変えることです。詳しくはDX推進とは何か。ITツールを入れることと何が違うのかの比較表をご覧ください。
Q. 専任の担当者がいなくても進められますか
進められます。責任者は兼任でかまいません。社長が目的と最初の1業務を決め、進み具合を見る日を先に決めます。
Q. 最初に何から手を付ければよいですか
まず、何を楽にしたいかを決めます。次に、今の仕事を書き出し、困りごとが大きい1つの業務から試します。順番は小さく始める手順。AIの活用を入口にするに書きました。
Q. 使える補助金や助成金はありますか
制度によっては、要件を満たせば受給できる可能性があります。内容は年度で変わります。申し込む前に、最新の公募要領を確認してください。
Q. 社内だけで進められますか、外の支援を頼るべきですか
社内だけで進める会社もあります。ただ、教える人や見る日が足りないときは、外の支援を使う方法があります。考え方は人材教育と外の支援の使いどころで説明しました。