この記事でわかること
- 最初は大がかりな専用システムではなく、毎日の手間が大きい「1業務」から試します。
- AIは下ごしらえ役です。読み取り結果や配車案の最終確認は、運行管理者や事務担当の人が行います。
- 数人・短い期間で試し、導入の前と後の手間を測って、続けるかどうかを決めます。
物流の中小企業は、配車・伝票など手間の大きい1業務から小さく試すのが基本です。AIは下ごしらえ、最終確認は人。選び方と5ステップを解説。

この記事でわかること
結論は、毎日の手間が大きい1業務を選び、小さく試すところから始めることです。いきなり全社に広げる必要はありません。
物流の現場では、「2024年問題」や人手不足が話題になっています。2024年問題とは、ドライバーの残業時間に上限が設けられ、運ぶ人手が足りなくなる心配のことです。少ない人数で回す工夫が求められる中、AIに関心を持つ社長もいます。ただ、AIを使っている中小企業はまだ多くありません。
中小企業基盤整備機構の調査では、AIを「既に導入している」中小企業は20.4%でした。対象は中小企業1,647社です。[出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査(令和8年3月)」(2026)]
導入の壁としては、「導入にあたっての高コスト」が最も高く、46.9%でした。複数回答で、有効回答は1,668社です。[出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査(令和8年3月)」(2026)]
なお、この2つの数字は物流・運送業に限った統計ではありません。中小企業全体の数字です。
AIを使った事業者は、何を目的にしたのでしょうか。中小企業庁の中小企業白書では、AI活用に取り組んだ事業者1,685社のうち、84.5%が「業務時間の節減」を挙げました。「人手不足の解消」は40.5%です。どちらも複数回答です。[出典:中小企業庁「2026年版 中小企業白書」(2026)]
生成AI(文章を作ったり、質問に答えたりするAI)への姿勢も見てみます。総務省の情報通信白書では、「積極的に活用する方針」か「領域を限定して活用する方針」と答えた中小企業の回答者は58.1%でした。対象は、従業員10名以上で、2025年までにデジタル化に取り組み始めた企業の管理職以上です。中小企業の回答者は162人です。[出典:総務省「令和8年版 情報通信白書」(2026)]
ポイント
費用の不安も、「何から始めるか」の迷いも、1業務に絞って小さく試せば扱いやすくなります。
結論は、「手間が大きく、紙・Excel中心で、失敗しても事故につながりにくい業務」を選ぶことです。製品名から選ぶのではなく、業務の特徴で見比べます。
たとえば、配送先が多くルートが毎日変わる現場なら、配車を候補にできます。FAXや紙の伝票が山になっている会社なら、伝票の入力が候補です。
次の表は、4つの業務を見比べるための目安です。自社の現場に当てはめて使ってください。
| 業務 | AIでできること(一般的な説明) | 見る点 |
|---|---|---|
| 配車 | 配送先が多くルートが日々変わる現場で、配車案のたたき台を作る | 法令に合うかを人が確認できるか |
| 受発注 | 受注メモやメールの内容を整理する | 紙・FAX・Excelのどれで回っているか |
| 在庫 | 需要の見通しを立て、過剰在庫や欠品に備える | 過去の出荷・在庫の記録があるか |
| 伝票 | 紙やFAXの入力を、紙の文字を読み取ってデータにする仕組み(AI-OCR)で減らす | 読み取りミスを人が確認できるか |
配車では、ルートの見直しや、ドライバーごとの負担のならし方を考えるときにも使えます。たたき台をもとに、人が調整します。
倉庫の中での検品(画像認識)やロボットは、準備に時間がかかることがあります。最初の1業務としては、向きにくい場合があります。
専用システムや倉庫ロボットを、先に買う必要はありません。まずは事務まわりから試す考え方があります。
試す前に、社長が決めておくことが3つあります。ここが決まっていないと、現場は動きにくくなります。
社長が先に決める3つのこと
結論は、AIは下ごしらえ、最終確認は人と分けることです。ベテランの経験は置き換えず、残します。
物流で話題になるAIは、大きく3つに分けられます。
配車担当や事務員の経験は、会社の財産です。AIには「たたき台づくり」を任せ、判断はこれまでどおり人が持ちます。
| 場面 | AIに任せてよいこと | 人が確認すること |
|---|---|---|
| 伝票の入力 | 紙やFAXの文字を読み取ってデータにする | 読み取った数字や宛先が合っているか |
| 配車・シフト | 配車案のたたき台を作る | 法令に合っているか(運行管理者が最終確認) |
| 問い合わせ・手順書 | 過去の資料から答えの候補を探す | 答えが今のルールと合っているか |
| 在庫・需要 | 出荷の記録から見通しを出す | 発注量を決めてよいか |
注意
AI-OCRの読み取りには間違いが起こることがあります。読み取り結果と配車案は、必ず人が確認してから使います。
結論は、1業務・数人・短い期間で試し、前後の手間を測って続けるかを決めることです。手順は5つあります。
まず、1つだけ選びます。選び方は社長が先に決める3つのことに戻って確認してください。
「何を減らしたいか」を、「伝票の入力時間」のように具体的な言葉にしておきます。
AIを使う前に、今の手間を測ります。たとえば、1週間に何件を、何人で、どれだけの時間で処理しているかを記録します。
前の数字がないと、試したあとに良くなったかどうかを比べられません。
試すのは数人、期間は短くします。AIの出した結果を確認する人も、この時点で決めます。
間違いが見つかったときの連絡先と直し方も、先に決めておきます。
試し終えたら、ステップ2と同じ方法で手間を測ります。前と後を並べて、続けるか、やめるか、やり方を変えるかを決めます。
省人化、ミスの減少、属人化の解消といった点は、期待できる場合があります。ただし、効果は会社や業務で変わります。自社の数字で確かめましょう。
続けると決めたら、社内の担当者を決めます。見直しの時期も決めます。社内だけで難しいときは、外部の専門家に続けて手助けしてもらう「伴走支援」を使う方法もあります。
「試して終わり」にしないことが、いちばんの目的です。
次のチェックリストで、試す前の準備を確かめてください。
結論は、失敗の多くは「準備と運用の決め不足」から起きるということです。先に対策を決めておけば防ぎやすくなります。
AI総合研究所の記事では、AIの試行が本格導入に進まない原因として、データ未整備、運用フローの欠落、単独工程の最適化の3つが挙げられています。[出典:AI総合研究所「物流業界のAI導入事例」(2026)]
| 失敗 | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| データが整っていない | 紙や個人のメモのまま、AIに渡せない | 伝票・受注記録の場所と形を先に確認する |
| 運用の流れが決まっていない | 誰が確認するか分からず、現場が止まる | 確認する人と連絡先を決める |
| 単独の工程だけを良くする | 前後の工程で手間が増える | 前後の工程も含めて流れを見る |
| 試しただけで終わる | 本格的な利用につながらない | ステップ5:続ける仕組みをつくるを先に決める |
| 現場の準備不足 | 現場が使わず終わる | 使う人に目的を説明し、数人から始める |
| 目的と合わないまま急ぐ | 手間が減らない | 何を減らすかを先に決める |
費用の壁は、公的調査でも確認できます。詳しくは物流の中小企業は、AIをどこから使えばよいですか?で触れました。
失敗を防ぐ2つの心がけ
Q.数十人の運送会社でも、配車や伝票にAIを使えますか?
A.使える場合があります。大がかりなシステムではなく、1業務を小さく試す形なら始めやすくなります。選び方は4つの業務を比べる観点で説明しました。
Q.ベテランの配車担当や事務員の仕事をAIに任せて、ミスや事故は起きませんか?
A.仕事を丸ごと任せるのではなく、下ごしらえだけを任せます。最終確認は人が行います。詳しくは下ごしらえはAI、最終確認は人をご覧ください。
Q.試しても現場が使わず終わりませんか?続けるには誰が何をすればよいですか?
A.社内の担当者を決め、見直しの時期を決めることが大切です。必要なら外部の伴走支援も使えます。手順はステップ5:続ける仕組みをつくるにあります。
Q.専用の配車システムや倉庫ロボットを先に買う必要がありますか?
A.まず事務まわりの1業務から試す考え方があります。詳しくは倉庫内作業は後回しでよい理由をご覧ください。
Q.物流向けの補助金はありますか?
A.この記事では扱っていません。最新の公募情報で確認してください。