製造業のAI活用は手順書から。最初の1か月の進め方

製造業のAI活用は、外観検査や予知保全より先に手順書づくりから。ベテランへの聞き取りと生成AIで下書きを作る4ステップと、社長が決める3つを整理します。

この記事でわかること

  • 数十人の製造業のAIは、外観検査や予知保全より先に、手順書づくりから始めると進めやすい。
  • 手順書は、ベテランへの短い聞き取りと生成AIで下書きを作り、確認役の人が直してから使う。
  • 最初の1か月で社長が決めるのは、対象の作業・協力してもらう人・確認役の3つ。

数十人の製造業は、AIをどこから使えばよいか

結論は、手順書やマニュアルなど、人に頼りきりの作業を整理するところから始めることです。外観検査や設備のAIは、そのあとで考えても遅くありません。

製造業では、少子高齢化による人手不足と設備の老朽化が背景にあります。ITmedia MONOist(2026年7月)の記事は、生産現場でAIを実用化するための基盤づくりが課題だと伝えています。[出典:ITmedia MONOist(2026年)]ベテランが退職すると、頭の中にある技能も一緒に失われます。

AIでできることは、画像で傷を見つける検査、設備の故障の前ぶれを見つける保全、売れ行きの予測、文書づくりなど幅広くあります。その中で、社内の紙や口頭の知識だけで始められるのが、生成AIによる手順書づくりです。

製造業の生成AI活用は、すでに始まっています。アルダグラム社の調査では、製造業で生成AIを仕事に使っている人は24.6%です。対象は5業界の各500人で、2025年6月に実施されました。5業界の中では最も高い値です。[出典:株式会社アルダグラム「5業界別・生成AI活用実態比較調査」(2025年)]

ポイント

数十人の会社が最初に狙うのは、大きな設備投資ではありません。今ある知識を言葉にする作業です。

中小企業のAI活用はどこまで進んでいるか

結論は、AIを導入している中小企業は一部の業務での導入を含めても2割ほどで、壁として最も多く挙がるのは費用ということです。周りが先に進んでいると焦る必要はありません。

導入率と目的は、数字でどうなっているか

公的な調査をまとめると、次のとおりです。調査ごとに対象が違うため、条件も一緒に見てください。

調査数字条件
中小機構の調査:中小企業のAI導入率20.4%一部の業務または全社で導入。回答1,647社。2025年11〜12月
中小企業白書:省力化投資でAI活用に取り組んだ割合30.3%2019年以降の省力化投資が対象。回答5,645社
中小企業白書:AI活用の目的「業務時間の節減」84.5%AIに取り組んだ1,685社。複数回答
中小企業白書:AI活用の目的「人手不足の解消」40.5%AIに取り組んだ1,685社。複数回答
情報通信白書:生成AIを活用する方針(大企業)74.0%活用領域を限定する場合を含む。大企業の管理職以上の回答353件
情報通信白書:生成AIを活用する方針(中小企業)58.1%活用領域を限定する場合を含む。中小企業の管理職以上の回答162件
IPAの調査:生成AIを導入している割合(2025年度)44.0%全規模の企業が対象で、中小企業に限らない。2024年度は22.6%。回答1,799社

[出典:中小企業基盤整備機構(2026)][出典:中小企業庁「2026年版 中小企業白書」(2026)][出典:総務省「令和8年版 情報通信白書」(2026)][出典:IPA「DX動向2026」(2026)]

導入はまだ一部で費用が壁のため、社長は小さな一歩から始めれば十分です。

中小企業白書の30.3%は、全業種の数字です。製造業だけの値ではありません。

製造業で生成AIを使っている人に絞ると、効果を感じた人は91.8%でした。これは活用している人のうちの割合です。調査はアルダグラム社によるものです。[出典:株式会社アルダグラム「5業界別・生成AI活用実態比較調査」(2025年)]

壁は費用と「何から始めるか」

中小機構の調査では、AI導入の壁として「導入にあたっての高コスト」が最も多く挙がりました。AIでは46.9%です。複数回答で、対象は中小企業の有効回答1,668社でした。[出典:中小企業基盤整備機構(2026)]

もう一つの壁は、何から手を付けるかです。AIsmileyやSalesforceなどの民間の解説記事でも、「どの業務に使えるか分からない」ことが課題として挙げられています。

手作業の多さも手がかりになります。ITを導入済みの922社のうち、業務の8割以上が手作業の会社は20.2%です。同じ調査で、いちばん多いのは手作業が60〜79%の会社(31.5%)でした。[出典:中小企業基盤整備機構(2026)]

費用の負担を減らす補助金はあるか

費用の負担を減らす制度として、中小企業省力化投資補助金のカタログ注文型があります。人手不足の解消に効果がある汎用の製品の導入費用を、一部補助する制度です。

事務局のカタログに登録された製品であれば、要件を満たせば補助を受けられる可能性があります。販売事業者が申請をサポートします。[出典:中小企業基盤整備機構 中小企業省力化投資補助金事務局(2026)]

注意

手順書づくり用の生成AIツールが対象になるかは、この記事では確認できていません。使う前に、事務局のカタログと要件を必ず確かめてください。

外観検査・予知保全・需要予測・手順書は、何が違うのか

結論は、外観検査・予知保全・需要予測は設備やデータが要り、手順書は今ある紙や口頭の知識から始められることです。始めやすさがいちばん違います。

4つの用途を、始めやすさで比べる

IBM、TextCortex、マネーフォワード クラウド(ビズ)の記事に表れた用途の整理をもとに、社長が自社で見る観点で並べました。特定の製品名は出していません。

用途何に使うか最初に必要なもの始める前の目安向いている会社
外観検査製品の画像から傷や汚れを見つけ、検品を自動にするカメラなどの設備と、良品・不良品の画像設備の準備や調整に、専門の支援が要ることがある同じ製品を大量に作り、検品の人手が足りない会社
予知保全設備のデータから、故障の前ぶれを見つける設備のセンサーと、稼働のデータデータの取り方から決める必要があり、支援が要ることがある設備の停止が経営に響く会社
需要予測販売や在庫のデータから、必要な量を予測する過去の販売・在庫のデータデータが整っていれば、社内で試せることもある在庫や生産量の調整に悩む会社
手順書づくりベテランの作業を文書にして、新人が使えるようにする紙や口頭の知識と、聞き取りの時間社内で始められるベテランの技能に頼っている会社

最初に必要なものを見ると、手順書づくりだけが新しい設備もデータも要りません。

日本政策金融公庫の3分類で見ると

日本政策金融公庫 総合研究所は、中小企業のAIの使い道を3つに分けています。「従業員の支援・代替」「見える化」「AIを使った製品・サービス開発」です。[出典:日本政策金融公庫 総合研究所「中小企業における AI 活用の現状と求められる支援」]

手順書づくりは、このうち「従業員の支援・代替」に近い使い方です。作業を覚える人と教える人を、AIが助けます。

なぜ手順書づくりが「最初の1歩」になるのか

結論は、手順書づくりは、顧客に影響せず社内で直せて、後のAI化の下地にもなるからです。順番は次の図のとおりです。

1 今ある知識 紙・口頭の知識 を手順書にする 2 言葉になる 属人化した作業 が言葉になる 3 次の段階 AIへ進む下地に 外観検査・予知保全
今ある知識を手順書にすることが、外観検査や予知保全などに進む前の下地になります。

手順書づくりが向いている3つの理由

1つ目は、今ある知識から始められることです。新しい設備もデータも要りません。

2つ目は、顧客に直接影響しないことです。手順書に不備があっても、お客様に届く前に社内で直せます。削減できた時間も測れます。

3つ目は、属人化の解消につながることです。特定の人しかできない作業を言葉にすると、ノウハウを引き継げます。1部門・1業務から始める考え方は、aipicksなどの解説記事でも紹介されています。

最初の1本の決め方は、マニュアルは最初の1本から。5ステップの作り方でも扱っています。

生成AIの出力は、必ず人が確認する

生成AIは、手順書の下書きを早く作れます。uravation、cloudpack、SHIFT AI経営、AI Marketなどの解説記事も、AIが下書きを作り、熟練者が確認する運用を紹介しています。[出典:uravation、cloudpack、SHIFT AI経営、AI Marketの解説記事]

ただし、AIは誤った内容を書くことがあります。製造現場では、手順の間違いが不良や事故につながります。

確認役が直す前の下書きは、現場に出さないことを、最初に決めてください。

ポイント

AIは下書き係です。内容に責任を持つのは、現場を知る人です。

最初の1か月で、社長は何を決め、誰に何を頼むか

結論は、社長が決めるのは「対象の作業」「協力してもらう人」「確認役」の3つということです。IT担当がいなくても、4つのステップで進められます。

流れと、誰が動くかは次の図のとおりです。

ステップ1 作業を選ぶ 社長 ステップ2 ベテランと 確認役を決める 社長 ステップ3 AIで下書き 担当者 ステップ4 現場で試して 直す 確認役
社長が決めるのは最初の2つで、下書きは担当者、現場での手直しは確認役が進めます。

進め方は、生成AIと手順書を扱う解説記事、aipicksの「90日ロードマップ」、giftxの記事を参考にしています。

手順書にする作業を1つ選ぶ

最初は1つの作業に絞ります。選ぶ条件は3つです。

作業を選ぶ3つの条件

  • 特定の人しかできず、属人化している
  • 手順書にする前後で、かかる時間を測れる
  • 間違えても、お客様に直接影響しない

迷ったら、新人によく質問される作業を選んでください。

協力してくれるベテランと確認役を決める

作業が決まったら、その作業をよく知るベテランに協力を頼みます。聞き取りは短く、1回に1つの作業だけにします。

頼み方は、「あなたの技を残したい」と目的を伝えることです。仕事を奪うためではないと、はっきり話してください。

確認役は、下書きを直す人です。作業を実際に知っている人を選びます。ベテラン本人でも、その次に詳しい人でも構いません。

聞き取りの内容をAIに渡して下書きを作る

ベテランに作業の流れ、気をつける点、失敗しやすい点を聞きます。話した内容をメモし、生成AIに渡して下書きにします。

AIに渡す指示文に入れること

  • 作業の名前と、使う場面
  • 手順を順番に書くこと
  • 気をつける点と、失敗しやすい点を分けて書くこと
  • 分からない点は、推測せず「要確認」と書くこと

この指示文は、社内で共通の型にしておくと、次の作業でも使い回せます。

製造業の作業手順書の作り方は、作業手順書は最初の1本から|製造業の作り方と確認法で詳しく説明しています。

現場で試して直し、効果を測る

確認役が下書きを読み、現場で実際に作業しながら直します。直した手順書を、新人や経験の浅い人に使ってもらいます。

作業にかかった時間を、手順書を使う前と後で比べます。ステップ1で測れる作業を選んだのは、このためです。

最後に、更新の担当を決めます。作業のやり方が変わったら手順書も直す、と決めておくと、作って終わりになりません。

次のチェックリストで、始める前の準備を確かめてください。

  • 手順書にする作業を1つに決めた
  • 協力してくれるベテランに、目的を伝えた
  • 下書きを直す確認役を決めた
  • 作業にかかる時間を、使う前に測った
  • 手順書を更新する担当を決めた

中小企業が続ける3つのコツも参考になります。

自社の作業のうち、どこから手順書にするか整理したい方は、ご相談ください。

よくある質問

結論は、数十人の会社でも、手順書づくりなら小さく始められるということです。社長のよくある疑問に、短く答えます。

Q1:町工場でもAIは役に立つか

役に立つ場面はあります。設備やデータが要る用途もありますが、手順書づくりは今ある知識から始められます。違いは4つの用途を、始めやすさで比べるで比較しています。

Q2:ベテランの頭の中の知識を、手順書にできるか

ベテランへの短い聞き取りを生成AIで下書きにし、確認役が直す形で進められます。理由はなぜ手順書づくりが「最初の1歩」になるのかで説明しました。

Q3:AIが誤った手順を出したら、事故や不良にならないか

確認役が直してから使うことで、誤った手順を現場に出す前に見つけやすくなります。下書きのまま現場に出さないことが前提です。

Q4:費用と手間は、IT担当がいなくても回せるか

最初の1か月は、4つのステップで進められます。費用が壁になる会社が多いことは、中小機構の調査で示されています。手順書づくりは、まず1つの作業から小さく始められます。

Q5:補助金は使えるか

カタログに登録された製品であれば、要件を満たせば補助を受けられる可能性があります。手順書づくり用のツールが対象かは、事務局のカタログで確認してください。

カクヤクAIXでは、中小企業のAI活用の進め方についてご相談を受け付けています。補助金の対象になるかは要件しだいのため、まずは状況をお聞かせください。

3分でわかる無料AI診断