作業手順書は最初の1本から|製造業の作り方と確認法

作業手順書は全工程でなく、最初の1本に絞って作ります。選ぶ3基準、AIで下書きを作る5ステップ、入れる項目の型、新人による合格テストまで解説。

この記事の要点

  • 作業手順書は、全工程を一度に作りません。最初の1本に絞ります。
  • 工程の流れを1枚の図にして、「ここだけ先に作る」範囲を決めます。
  • 新人が手順書だけで作業してみて、止まった所を直せば合格です。

なぜ、全部の作業を手順書にしようとすると止まるのか

全部を手順書にしようとすると、洗い出しだけで手が止まります。最初は1本だけ作れば十分です。

ベテランの頭の中にある作業を、誰でもできる形にしておく。これは人が減る時代の備えになります。ただ、全工程を並べてから始めると、日々の仕事に追われて進みません。

手順書の役割は、品質と教育です。作業のばらつきをなくし、新人教育の道具にもなります。[出典:一般財団法人食品産業センター「HACCP基盤強化のための衛生・品質管理実践マニュアル」(2014)]

安全の面でも欠かせません。手順の誤りは、労働災害の大きな原因の一つです。[出典:労働新聞社「【現場ゼロ災のための安全文化考】第11回 参加型の作業手順書」(2012)]

手作業が多い現場ほど、作業が人についてしまう

手作業が多いと、作業のコツは人の経験の中に残りやすくなります。

中小企業基盤整備機構の調査があります。対象はITを導入済みの中小企業922社です。業務全体のうち手作業が80%以上と答えた会社は20.2%でした。約5社に1社です。[出典:中小企業基盤整備機構(2026)]

人が減る前に、1本だけでも形にしておく

働く人の数は、これから減っていく見込みです。

中小企業庁の「2026年版 中小企業白書」には、中小企業の雇用者数の将来推計があります。2018年と比べた数字です。中位推計では、2040年に約8%低下します。[出典:中小企業庁(2026)]

低位推計では、2040年に約16%低下します。[出典:中小企業庁(2026)]

ポイント

人が減ってからでは、ベテランに聞く時間も取れません。1本だけでも、いまのうちに形にしておきます。

最初に作る作業は、どう選べばいいのか

選ぶ基準は3つです。当てはまる数が多い作業を、1本目にします。

たとえば、溶接の仕上げ確認がベテラン1人しかできず、手直しも多く、新人が最初に任される作業だとします。3つとも当てはまるので、これが1本目の候補です。

愛知県の資料にも、まずモデル工程を1つ決めて作る取り組みがあります。ベテランの作業を観察して聞き取り、手順を言葉にしています。[出典:愛知県「伴走型支援取組状況」(2024)]

1本目を選ぶ3つの基準

次の3つを、作業ごとに自己チェックします。

自己チェック項目

  • □ ベテラン1人しかできない
  • □ 不良やクレームが出やすい
  • □ 新人が最初に担当する

チェックが多い作業から、1本目にします。同点なら、その作業が止まったときの困り方が大きい方を選びます。

迷ったら「新人が最初に担当する作業」から

3つの基準で迷ったら、新人が最初に担当する作業を選びます。

新人が最初に触る作業は、手順書の効果が一番早く見えます。使う人がすぐそばにいるので、確かめやすいからです。

工程の流れを1枚の図にして、先に作る範囲を決める

工程の流れを1枚の図にして、1本目の範囲だけを囲みます。前後の工程は、つなぎ目の条件だけ書きます。

たとえば、受入、加工、組立、検査、出荷の流れがあるとします。1本目が「検査」なら、検査の部分だけを囲みます。受入や出荷の中身は、後回しです。

1本目はここ 受入 加工 組立 検査 出荷 組立が終わった製品 (受け取る条件) 合格の印をつけた製品 (渡す条件) 中身は後回し 前後は「つなぎ目の条件だけ」
1本目に作るのは「検査」だけで、前後の工程はつなぎ目の条件だけ先に決めます。

前後の工程とのつなぎ目だけ先に決める

前の工程から何を受け取るかを、先に決めます。次の工程へ何を渡すかも同じです。

検査なら、受け取る条件は「組立が終わった製品」です。渡す条件は「合格の印をつけた製品」です。こうしておけば、前後の工程の手順書が未完成でも、1本目は作れます。

最初の1本の決め方は、マニュアルは最初の1本から。5ステップの作り方でも扱っています。

手順書の作り方:ベテランの話をAIで下書きにし、人が仕上げる

手順は「観察、下書き、現場で確認、修正」の順に進めます。下書きはAI、判断は人が行います。

ベテランに文章を書かせる必要はありません。作業をスマホで撮るか、話してもらいます。それをAIで文字にして、下書きにします。

省力化のための投資でAIを使った会社は、まだ一部です。中小企業庁の白書では、2019年以降の省力化投資でAI活用に取り組んだ割合は30.3%です。対象は5,645社です。[出典:中小企業庁(2026)]

取り組んだ事業者に目的を聞くと、「業務時間の節減」が84.5%でした。複数回答で、対象は1,685社です。[出典:中小企業庁(2026)]

手順書の下書きづくりも、AIに手伝わせやすい作業です。

ベテランの作業を撮る・話してもらう

まず、ベテランがふだんどおり作業する様子をスマホで撮ります。撮りながら、その場で理由を話してもらいます。

食品産業センターの資料(HACCPの手順書づくり)があります。作業者の観察から始め、現場と一緒に作るとしています。「見て分かる」形にすることも大切だとしています。[出典:一般財団法人食品産業センター「HACCP基盤強化のための衛生・品質管理実践マニュアル」(2014)]

AIで下書きを作り、手順・急所・理由に整える

動画や録音を文字にして、AIで下書きにします。既存の手順書や部品表があれば、一緒に渡します。用語や細かさがそろいやすくなります。

AIへの頼み方は、たとえば次のとおりです。

  • 「この文字起こしは、検査作業の様子です。部品表も付けます」
  • 「手順・急所・理由の3列の表にしてください」
  • 「数値は省かず、分からない所は空欄にしてください」

空欄の所は、ステップ5でベテランに聞きます。

整える形は、中小機構のJ-Net21にあります。最低でも「手順」「急所」「理由」の3つを入れます。急所とは、うまく作業するためのコツや、手を抜いてはいけない所です。[出典:中小企業基盤整備機構 J-Net21「作業標準書の必要性とその内容について教えてください。」]

注意

締め付けの強さや温度など、数値がある作業は、数値を必ず書きます。

入れる項目の型にそろえる

下書きができたら、決まった項目の型に入れます。型をそろえると、2本目から作るのが楽になります。

項目書くこと
管理情報作業名、作成日と改訂日、何回目の改訂か、作成者、承認者
準備物と工具部品や材料、治具や工具、消耗品。型番と数量、置き場所
手順・急所・理由手順の番号ごとに、やる動作、大事なコツ、そうする理由
写真や図文字だけでは伝わりにくい所の写真
安全上の注意保護具、危ない動作、緊急の連絡先、設備の止め方
改訂履歴誰が、いつ、どこを直したか

マネーフォワードの解説記事にも、ほぼ同じ項目が挙がっています(「急所・理由」の形は、J-Net21の考え方です)。[出典:マネーフォワード「【無料テンプレ付】製造業の作業手順書の作り方とは?エクセル活用法や注意点」(2026)]

安全上の注意は、色や絵の記号で目立たせます。同じ記事では、手順の文に埋もれないようにするためとしています。[出典:マネーフォワード「【無料テンプレ付】製造業の作業手順書の作り方とは?エクセル活用法や注意点」(2026)]

この項目を、表計算ソフトや文書ソフトの欄にしておきます。それが自社の手順書のひな形になります。

書き方のルールで見直す

最後に、文の書き方をそろえます。新人が読んで、そのまま手を動かせる文にします。

次のチェックリストで、下書きを見直してください。

  • 1つの手順に、1つの動作だけを書いている
  • 「〜する」と言い切る、短い文になっている
  • 専門用語に、短い説明を添えている
  • 締め付けの強さや温度など、数値を書いている
  • ベテランが省きがちな下準備の動作も書いている
  • 文字で伝わりにくい所に、写真や図がある

同じマネーフォワードの記事にも、こうした書き方が挙がっています。[出典:マネーフォワード「【無料テンプレ付】製造業の作業手順書の作り方とは?エクセル活用法や注意点」(2026)]

写真は、手元と工具がはっきり写る近さで撮ります。ステップ1で撮った動画から、場面を切り出しても使えます。

ベテランに「頼み方」を決めて確認してもらう

下書きは、ベテランと現場の人が確認します。安全、品質の基準、コツの最終判断は人が行います。

頼み方には、2つの工夫があります。

頼み方の工夫

  • 時間は短く区切って、何回かに分けてお願いする
  • 目的を社長が直接伝える

「あなたの技を会社に残したい」と、社長の言葉で伝えます。

ベテランの予定は、3つの場面で組みます。撮影、下書きの確認、合格テストの立ち会いです。かかった時間を1本目で計っておくと、2本目の予定が立てやすくなります。

作った後の確かめ方と、よくある失敗

中小企業が続ける3つのコツも参考になります。

ポイント

確かめ方は、新人が手順書だけで作業してみることです。止まった所を直せば、使える手順書になります。

たとえば、ベテランが横で見ているとします。口を出さず、新人が止まった所や聞き返した所をメモします。その箇所が、直す場所です。

新人が手順書 だけで作業 ベテランが横で見る 止まった所を直す 合格 なくなれば もう一度試す
止まった所を直してもう一度試し、止まる所がなくなれば合格です。

新人が手順書だけで作業する「合格テスト」

合格テストは、次の流れで行います。

合格テストの流れ

  1. 新人(または別の担当者)が、手順書だけで作業する
  2. ベテランは横で見て、口を出さない
  3. 止まった所と、聞き返した所を記録する
  4. 手順書を直して、もう一度試す

止まる所がなくなれば合格です。ONESの解説でも「初心者テスト」を勧めています。初めて作業する人に、実際にやってもらう方法です。[出典:ONES「初心者でも簡単!分かりやすい手順書の作り方とポイント」(2025)]

作って終わりにしない3つの決めごと(担当・見直す時期・置き場所)

作った後は、誰が、いつ、何を見るかを決めます。改訂履歴も残します。置き場所は1か所にします。

使われなくなる原因は、スタディストなど3社の記事に挙がっています。[出典:スタディスト「なぜマニュアルは作っても使われないのか? 『本当に利用される』ための3社の取り組み」(2023)、SHIFT AI「マニュアルが機能しない5つの理由と改善策|定着させる3つの視点も解説」(2025)、クラスメソッド「誰が読んでも理解できる実践的な作業手順書の作成方法」(2025)]

対策は、この記事の考え方で対にして示します。

よくある失敗対策
現場を知らない人が書く作業する人も作成に加わる
文章だけで分かりにくい写真や図を入れる。新人に分かりにくい所を指摘してもらう
設備が変わっても直さない見直す時期を決める
ファイルが散らばる置き場所を1か所にする
特定の人しか更新できない更新する担当を複数決め、変更履歴を残す

よくある質問

全部作る時間がないときは、どうすればいいですか

全部は作りません。3つの基準で選んだ1本だけ作ります。(1本目を選ぶ3つの基準)1本が形になってから、次の作業に進みます。

ベテランが書けない、忙しいときはどうしますか

書かせなくて大丈夫です。作業をスマホで撮るか、話してもらいます。時間は短く区切り、目的は社長が直接伝えます。

AIに任せてよい範囲はどこまでですか

任せるのは下書きまでです。安全、品質の基準、コツの最終確認は、必ず現場の人が行います。AIの下書きは、人の確認が前提です。

手順書とマニュアルは何が違いますか

手順書は、1つの作業のやり方を細かく書いたものです。マニュアルは、業務の大枠や注意点、ノウハウをまとめたものです。この記事で作るのは、手順書です。

似た言葉に「作業標準書」があります。誰がやっても同じ結果が出るよう、いま最善の手順を定めたものです。[出典:中小企業基盤整備機構 J-Net21「作業標準書の必要性とその内容について教えてください。」]

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