税理士とAIの役割分担|任せる範囲と確認の線引き

AIに任せるのは読み取りや下書きまで。節税判断や制度の最終判断は税理士です。顧問税理士への相談のしかたと、社内で先に整える準備を解説します。

この記事でわかること

  • AIに任せられるのは、領収書・請求書の読み取りや仕訳(お金の出入りを帳簿のどの項目に付けるか決める作業)の下書きなどの定型作業までです。個別の節税判断や制度の最終判断は税理士に確認します。
  • 先に社内で「証憑(領収書や請求書など)をデータで受け取り、保存する流れ」を整えます。
  • 顧問税理士には、AIで下調べした質問メモを持って相談します。会計ソフトやデータ連携を変えるときは、事前に税理士と合わせます。

AIを使うと、顧問税理士に頼む仕事は減らせるのか

減るのは記帳や読み取りなどの作業の部分で、判断や相談の部分は残ります。顧問料が下がるかどうかは、今回の資料に数字がないため言い切れません。

ポイント

先に決める線引きは1つです。AIは作業、判断は税理士。この考え方で、税理士に頼む中身を作業から相談へ移していきます。

税理士事務所の経営を扱う新日本法規出版のコラムは、AIで自動仕訳や読み取りが進むと述べています。ただし、それは職能の消滅ではなく、価値の出し方の転換だという主張です。[出典:新日本法規出版「AI時代の税理士事務所経営」(2026)]

同じコラムは、AIは作業を担い、制度を当てはめる最終判断は専門家だとしています。たとえば医療費控除の明細づくりはAI、対象外の支出かどうかの判定は専門家、という分け方です。

顧問料については、まず「作業の範囲を見直したい」と税理士に相談してください。記帳や読み取りを社内とAIで受け持つなら、頼む仕事の中身が変わります。そのうえで、料金をどうするかを話し合います。

次のチェックリストで、自社の「AIを入れる前の状態」を確かめる

AI活用の前提は、データがそろっていることです。次のチェックリストで、自社の状態を確かめてください。

  • 請求書・領収書を、メールやPDFなどのデータで受け取っているか
  • 受け取ったデータの保存場所と、保存のルールが決まっているか
  • 経理担当は何人か(1人なら、休んだときに誰が見るか)
  • 使っている会計ソフトと、税理士とのやり取りの方法(データ連携か紙か)が分かるか
  • AIに入力してはいけない情報(取引先名・口座・個人情報など)が社内で決まっているか

証憑をデータで受け取る・保存する

メールやPDFで受け取った請求書は、紙にしても、データそのものの保存が必要になる場合があります。まずは受け取り方と置き場所をそろえましょう。[出典:国税庁「【国税庁の取組紹介】電子帳簿保存」]

メモ

電子帳簿保存法は、帳簿や書類をデータで保存できるようにする法律です。メールなどでやり取りした請求書などのデータ(電子取引データ)の保存義務と保存方法も定めています。対象は法人と個人事業者です。[出典:国税庁「電子帳簿等保存制度特設サイト」]

経理担当が1人のときの注意

経理を1人で受け持つ会社もあります。担当が1人だと、休んだときに処理が止まります。AIで読み取りと下書きを任せ、やり方を書き残しておけば、代わりの人が見やすくなります。

AIに入れてよい情報・いけない情報

AIに入力してよい情報の範囲を、社内で先に決めます。取引先名、口座、個人情報などは、入力しない情報の候補です。

税理士事務所の側でも、ルールを公開している例があります。辻・本郷税理士法人は、生成AIの利用の基本方針を「生成AI利活用ガイドライン」として公開しています。[出典:辻・本郷税理士法人「生成AI利活用ガイドライン」]

AIに任せる・社内で確かめる・税理士に確認するの線引き表

仕事ごとに、どこまでAIに任せ、誰が最後に確かめるかを決めると迷いません。最後の判断は、税理士に戻ります。

1 AIに任せる 2 社内で確かめる 3 税理士に確認 読み取りと仕訳の下書き 経理や税金の下調べ 文章・資料の下書き 個別の節税判断は 任せない 金額・日付を見る 答えは仮と理解する 内容の誤りを見る 相談内容をまとめる 事実関係をそろえる 迷う仕訳 節税の判断 制度の最終判断 税務代理・税務相談 税務調査の対応
AIは作業、社内は確認、最後の判断は税理士に戻ります。
仕事AIに任せてよいか社内で確かめること税理士に確認すること
領収書・請求書の読み取りと仕訳の下書き任せてよい読み取った金額・日付・取引先判断に迷う仕訳
経理や税金の一般的な調べもの下調べに使える答えが仮のものだと理解する自社に当てはまるか
文章・資料の下書き任せてよい内容の誤りがないか税務に関わる記述
個別の節税判断任せない相談したい内容をまとめる判断そのもの
制度の適用の最終判断任せない事実関係をそろえる最終判断
税務代理・税務書類の作成・税務相談任せない依頼の範囲依頼するか、自社の場合はどうか
税務調査への対応任せない書類がそろっているか対応の進め方

税務代理(本人に代わって税務の手続きをすること)・税務書類の作成・税務相談は、民間の解説では税理士だけができる仕事(独占業務)とされています。[出典:士業ジョブ「税理士の仕事とAI」]自社の場合にどうなるかは、税理士に確認してください。

個別の節税判断、税務調査への対応、税務代理は税理士の仕事だとする解説もあります。[出典:鮎澤パートナーズ「AI・ChatGPTと税理士の役割」]

細かい計算は会計ソフト、下調べや文章はAI

役割分担の基本形は、計算は会計ソフト、下調べや文章はAIです。PwC Japanのコラムは、1円単位の計算はソフト、文章や分析は生成AIという分け方を挙げています。[出典:PwC Japan「生成AIコラム vol.13」]

領収書や請求書の読み取りから仕訳登録までは、AIと文字の読み取りの仕組みで自動処理できると、会計ソフトを提供するfreeeは説明しています。[出典:freee「(税理士向け)AI」解説]

AIの答えをそのまま使ってはいけない理由

生成AIは、もっともらしい間違い(ハルシネーション)を出すことがあります。PwC Japanのコラムは、専門分野でもっとも注意すべき点としてこれを挙げ、日本の税法への対応力にも限界があるとしています。[出典:PwC Japan「生成AIコラム vol.13」]

注意

AIの答えをそのまま申告や経営の判断に使わないでください。使うのは下調べまでです。最後は税理士に確かめます。

関連:経理のAIは何から任せる?小さく始める5ステップ

数字で見る中小企業のAI活用

中小企業のAI導入はまだ一部で、費用の壁を感じる会社が多くなっています。だから「全部AIで」ではなく、証憑の整理など小さく始めるのが現実的です。

参考になる数字

顧問税理士へのAIの相談のしかたと、伴走支援の使い方

税理士は税務の専門家です。社内の業務の流れを変える支援は、別の相談先を使う方法があります。伴走支援とは、会社の取り組みに寄り添って、一緒に進める支援のことです。相談は3つのステップで進めます。

1 社内で データをそろえる 2 AIで下調べ 質問メモを作る 3 税理士に相談 ソフトの合わせ方 4 流れ作りは 伴走支援へ
先に社内を整え、AIで下調べして税理士に相談し、業務の流れ作りは伴走支援に相談します。

AIで下調べして質問メモを作る

AIに、気になる経理や税金の論点を聞いて、質問メモを作ります。AIの答えは「仮の答え」です。そのまま判断には使いません。

メモには、インボイス、電子帳簿保存法、税務調査への備えなど、困っていることを入れます。顧問先に求められるのは、数字の意味の説明や選択肢の提示だとする解説もあります。[出典:エム・アセット「税理士のAIと仕事の不安」]

会計ソフトとデータの渡し方を税理士と合わせる

使う会計ソフトや、データの渡し方は、税理士と事前に合わせます。ソフトの変更や連携は、決める前に相談してください。

メールで受け取った請求書などのデータの保存には、小規模な事業者向けに、負担を軽くする扱いがあります。ただし条件は複雑です。自社が当てはまるかは、税理士か税務署に確認してください。[出典:国税庁「電子取引データを適切に保存できていますか?」(2024)]

注意

税理士に相談せずに、会計ソフトだけを先に変えないでください。データの渡し方が合わず、やり直しになることがあります。

確認すること

  • 仕訳の件数はどのくらいか
  • 経理担当は何人か
  • 会計ソフトを社内で使える体制か
  • 税理士はAI・クラウド会計に対応しているか、専門分野は何か

自計化(社内で記帳すること)にするか、記帳代行(税理士事務所などに記帳を任せること)にするかは、この観点で税理士と話し合います。費用の目安は、ここでは示しません。

社内の業務の流れ作りは伴走支援に相談する

証憑の受け取り方や保存の流れなど、社内の業務の流れを変える支援は、税理士とは別に相談できます。カクヤクAIXは、AI活用を進める伴走支援のサービスです。社内の業務の流れをどう変えるか、相談先の一つとしてご覧ください。

関連:AIコンサルと伴走支援の違い|選び方と契約前の質問

よくある質問

Q1 AIを使えば顧問料は下がりますか

資料に数字がないため、下がるとは言い切れません。まず作業の範囲を見直す相談をしましょう。詳しくはAIを使うと、顧問税理士に頼む仕事は減らせるのかで説明しています。

Q2 ChatGPTなどに経理や税金を聞いて、そのまま使ってよいですか

そのまま使わないでください。AIは間違った答えを出すことがあります。詳しくはAIの答えをそのまま使ってはいけない理由をご覧ください。

Q3 取引先の名前や金額をAIに入れても大丈夫ですか

先に社内のルールを決めてください。士業ジョブの解説では、AIサービスには税理士のような守秘義務がないとされています。[出典:士業ジョブ「税理士の仕事とAI」]

Q4 経理担当が1人だけでも使えますか

使えます。読み取りと下書きをAIに任せ、やり方を書き残しましょう。詳しくは経理担当が1人のときの注意で説明しています。

Q5 AIの導入は、顧問税理士にどう切り出せばよいですか

AIで作った質問メモを持って、会計ソフトとデータの渡し方から相談します。手順はステップ1:AIで下調べして質問メモを作るから順に進めてください。

まず社内で整えるところから一緒に。AI活用の進め方は、カクヤクAIXに相談できます。

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