介護記録は型とルールで揃える、個人任せでない仕組みづくり

介護記録の書き方は、文章力より会社の型とルールで揃えます。5W1Hなど書き方ルール6つ、場面別の例文、SOAP形式、記録の保存、記録時間の測り方、記録ソフトの補助の確認先をまとめました。

この記事でわかること

この記事は、介護事業所を経営する社長向けです。

  • 介護記録の基本は3つです。いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのようにを漏れなく書く(5W1H)、事実と解釈を分ける、時刻と数値で書く。
  • 質を揃えるには、研修だけでなく、会社が決める型とルールが効きます。
  • 記録時間は自社で測り、型や表現リスト、ソフトは小さく試して見直します。ソフトは、要件を満たせば補助を受けられる可能性があります。[出典:厚生労働省老健局高齢者支援課(2026)]

介護記録は「書き方」より「会社の仕組み」で揃える

ポイント

職員が書く記録の質は、個人の文章力より、会社が決めた型とルールで決まります。社長の役割は、書き方を教えることより、ルールを決めて定着させることです。

書く人が違えば、同じ出来事でも記録は変わります。介護の入浴介助を例にします。職員Aは「入浴した。問題なし」と書きます。職員Bは「13時、浴槽に5分入る。右肩を気にして『痛い』と話した」と書きます。

この差は、文章力だけでは生まれません。「何を書くか」の型があるかどうかで決まります。

型とは、書く項目と順番を決めた書式のことです。決まった型があれば、文章が苦手な職員でも同じ項目を書けます。

個人任せと仕組みで揃える記録の比較 左は個人任せの記録、右は型と表現リストで揃える記録の流れ 個人任せの記録 仕組みで揃える記録 書く人の感覚で書く 項目も順番もバラバラ 「入浴した。問題なし」 感想だけで終わる 確認する人が不明 質が人によって違う ① 書く前 型と表現リストを用意 ▼ ② 書く 6つの項目で書く いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように ▼ ③ 確認 見る人を決めておく 記録の質は、会社の型とルールで揃えます
記録の質は、個人の文章力ではなく、書く前の型と確認の流れで揃えます。

記録の目的は「情報共有」「家族への説明」「事業所を守る証拠」の3つ

介護記録には、3つの目的があります。

記録の3つの目的

  1. 職員どうしで情報を共有する
  2. 家族に様子を説明する
  3. 事業所と職員を守る証拠を残す

目的が分かると、「何を書くべきか」を職員が自分で判断しやすくなります。ルールを作るときは、まずこの3つを職員全員に伝えます。

記録が不正確だと、会社にどんな不利益があるのか?

事実があいまいな記録は、説明が必要な場面で困ることがあります。事故が起きたとき、家族から苦情が出たとき、行政が事業所の記録を確認するときです。

たとえば「転倒した。たぶん自分でバランスを崩したようだ」という記録を考えます。「たぶん」は書いた人の推測です。誰が、いつ、どこで、何を見たのかが分かりません。

後から家族に聞かれても、事実を示して説明しにくくなります。書き方の問題が、そのまま会社の説明力の問題になります。

行政が確認する記録の要件のうち、保存のルールは記録は保存が求められる(国の基準)で触れます。そのほかの要件は、所在地の都道府県や市町村の窓口で確認してください。

避けたい書き方の例と、具体的な行動への言い換え

決めつけの言葉や、「問題なし」のような感想の言葉は、事実ではなく書き手の感想です。見た行動に言い換えます。

時刻や回数は、例として置いた数字です。

避けたい書き方 言い換えの例
不潔行為があった 排泄物を手でさわり、ベッド柵に付けていた
拒否が強かった 「いらない」と言い、スプーンを手で押し返した
落ち着きがなかった 5分の間に3回、席を立って廊下へ歩いた
機嫌が悪かった 呼びかけに返事をせず、顔をそむけた

言い換えのコツは、「映像として思い浮かぶか」を確かめることです。思い浮かばない言葉は、感想の可能性が高いです。

記録は保存が求められる(国の基準)

国の基準には、記録を決まった期間保存するよう定めたものがあります。

国の基準(厚生労働省令)には、訪問介護の場合の決まりがあります。提供したサービスの内容や、事故・苦情の記録などを保存します。期間は、その記録が完結した日から2年間です。[出典:厚生労働省「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」第39条(平成11年厚生省令第37号)]

同じ基準では、サービスを提供したら、その内容を記録するとしています。利用者から申し出があれば、文書などで情報を提供します。[出典:厚生労働省「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」第19条(平成11年厚生省令第37号)]

注意

実際の基準は、都道府県の条例で定めます。保存期間は、所在地の自治体で確認してください。[出典:介護保険法 第74条(平成9年法律第123号)]

ここで確かめた条文は、訪問介護のものです。ほかのサービスも、所在地の自治体の窓口で確認してください。

職員全員が守る「書き方ルール6つ」と場面別の例

記録の質は、次の6つのルールを全員で守ると揃いやすくなります。1枚の紙にまとめて、記録を書く場所に貼ります。

書き方ルール6つ

  1. 5W1Hで書く:いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように、を押さえる。
  2. 事実と解釈を分ける:見たこと、聞いたことだけを書く。感想は別に書く。
  3. 時刻と数値で書く:「多め」でなく「200ml」、「少し後」でなく「10分後」と書く。
  4. 本人の言葉は「」で書く:言われたとおりに書く。
  5. 専門用語・略語を避ける:誰が読んでも分かる言葉にする。
  6. だ・である調で短く書く:「〜した」「〜だった」で終える。一文に一つの内容にする。

記録の前後に、次の項目を確認します。

  • □ 時刻が入っているか
  • □ 見たことと感じたことが分かれているか
  • □ 「問題なし」「良好」など、感想の言葉だけで終わっていないか
  • □ 本人の言葉は「」で書いたか
  • □ 略語や、自分だけが分かる言葉を使っていないか
  • □ 誰に報告したかが書いてあるか
  • □ だ・である調で、一文に一つの内容になっているか

場面別の例文(良い記録・避けたい記録)

時刻や量は、例として置いた数字です。

場面 避けたい記録 良い記録
食事 食欲なし。あまり食べない 12時10分、主食を3口食べて「もういい」と話した。副食は手をつけなかった
排泄 失禁あり。不潔行為あり 10時30分、トイレへ案内する途中で失禁した。下着を手で触っていた
入浴 入浴拒否 13時、浴室の前で「寒いから嫌だ」と言った。15時に再度声をかけ、入浴した
服薬 薬を飲ませた 8時、朝の薬を水で飲んだ。飲み込むまで見守った
体調変化 顔色が悪く心配 14時、顔色が青白く、手が冷たかった。看護師に報告し、検温を依頼した
夜勤(巡視・睡眠) よく眠れていた 2時の巡視で、目を閉じて寝息を立てていた。4時は目を開けていて「眠れない」と話した
移動・移乗 ふらつきあり 9時、車いすからベッドへ移るときに膝が曲がり、体が右に傾いた。職員2人で支えた
レクリエーション 楽しそうだった 14時、体操に参加した。腕を上げる動きを最後まで行い、「また来週も」と話した
家族への連絡 家族に報告済み 17時、長女に電話し、昼食を半分残したことを伝えた。「様子を見てほしい」と言われた

転倒を発見した場面では、発見時の様子、声かけ、本人の返答、体の確認結果、連絡した相手を、時刻とともに順に残します。本人が話したことと、職員が見たことは分けて書きます。

記録の型の一つ「SOAP形式」

SOAP(ソープ)形式は、記録を4つの欄に分けて書く型です。医療職の記録でも使われる型です。介護記録でも使う事業所があります。

時刻は、例として置いた数字です。

欄 書くこと 例
S(主観的情報) 本人が話したこと 「腰が痛い」と話した
O(客観的情報) 職員が見たこと・測ったこと 10時、歩くときに腰に手を当てていた
A(評価) SとOから職員が考えたこと 腰の痛みで、歩きにくいと考えた
P(計画) 次にすること 看護師に報告し、午後も歩く様子を見る

事実(SとO)と、職員の考え(A)が欄で分かれます。書き方ルールの「事実と解釈を分ける」を、型で守れます。

どの型を使うかは、会社で一つに決めます。人によって型が違うと、記録は揃いません。

文章が苦手な職員・新人・外国人職員向けの「入力の型」

文章が苦手な職員には、自由に書かせるより、型を渡します。型は「選ぶ式(チェック式)」と「短い自由記述」の組み合わせです。

  • 選ぶ式(チェック式):食事量(全部・半分・少し・なし)、顔色(普通・青白い・赤い)など。当てはまるものに印をつけます。
  • 自由記述:「気になったこと」を1〜2文だけ書く。

よく使う表現は、リストにして記録の場所に置きます。たとえば「手で押し返した」「首を横に振った」「『痛い』と話した」です。新人や外国人職員は、リストから選ぶだけで、事実に近い表現を使えます。

記録の欄は、サービスに合わせて変えます。通所なら送迎時に家族へ伝えたこと、訪問なら次の担当者への引き継ぎを書く欄を用意します。

記録の負担は現場でどれくらい重いのか?自社の時間はどう測る?

記録の負担は、現場ではっきり出ることがあります。ただ、1つの調査は全国の傾向ではありません。自社の時間は、自社で測るのが確実です。

ここでは、他の法人の調査を、自社で測った時間と比べるときの参考として紹介します。

介護施設を運営する日南株式会社(なんじょう苑グループ)が、職員向けにアンケートを行いました。「時間・工数がかかっている業務」(上位3つまで選ぶ設問)では、「記録・ドキュメント入力」が42.6%で最も多くなりました。[出典:日南株式会社「【沖縄発・介護現場の業務負担を調査】なんじょう苑グループ、介護・看護職員にアンケート調査を実施」(2026)]

同じ調査では、記録業務に1日30分以上かける職員は57.4%でした。

記録業務で負担に感じることでは、「記録のタイミング(利用者対応の合間に記載)が難しい」が53.2%でした。

対象は、沖縄県南城市のなんじょう苑グループで働く介護職・看護職・リハビリ職です。有効回答は47名です。調査期間は2026年3月17日〜26日です(発行者のプレスリリースの調査概要。2026年10月19日に確認)。

1つの法人の小規模な調査で、全国の傾向を示すものではありません。自社の判断には、この数字ではなく、次の手順で測った自社の時間を使います。

自社の記録時間を測る手順

特別な道具は要りません。次の手順で測ります。

  1. 職員を数名選ぶ。経験の長い人と新人を混ぜる。
  2. 1週間、記録にかけた時間をメモしてもらう。紙1枚で足りる。
  3. 「いつ書いたか」も書いてもらう。ケアの合間か、勤務後かが分かる。
  4. 1人ずつ、1週間の合計時間(分)を、その人が記録した日数で割り、1日あたりの時間を出す。全員分を足して人数で割ると、1人1日あたりの平均になる。
  5. 時間が長い場面を見つけ、型やルールを見直す。

測った結果は、ソフトを入れるか決めるときの判断材料になります。

測ったあと、記録ルール作りから相談したい方は、次のご案内をご覧ください。

記録ソフトやAI音声入力は、費用や補助金の面でどう考える?

記録ソフトやAI音声入力は、一部の職員・場面から小さく試すのが基本です。介護記録ソフトは、要件を満たせば補助を受けられる可能性があります。AI音声入力が対象になるかは、都道府県の窓口で確認してください。

費用の金額は、この記事では扱いません。製品や規模で変わるためです。見積もりは、複数の提供元から取ります。

紙・ソフト・AI音声入力は、向く場面と決めておくことが違います。始める前に確かめることも違います。

方法 向く場面 決めておくこと 始める前に確かめること
紙(手書き) 職員が少なく、記録の項目が少ない 読みやすい字で書く。続けて書いた読みにくい走り書きや略字を避ける。保管場所 保管する場所の広さ、過去の記録を探す手間
記録ソフト 同じ内容を何度も書き写している 入力する人、項目、他の書類とのつなぎ方 入力に使う端末の数、通信環境、慣れるまでの期間、紙との併用期間
AI音声入力 手を使えず、書く時間が取れない 最終確認者、個人情報の扱い、修正のルール 話す場所(ほかの利用者の声が入らないか)、端末の数、通信環境

記録ソフトやAI音声入力は、端末や通信環境が足りないと使いにくくなります。慣れるまでは、紙と併用する期間も要ります。

AI音声入力の使い方は、次のとおりです。使うツールに文字起こしと整える機能があれば、ケアが終わったあと、職員が話したメモをスマホなどで文字にできます。その文字を、AIが記録の形に読みやすく整えます。最後に人が読んで確認します。

流れは「話してメモ→AIが整える→人が確認」です。AIが整えた文章は、そのまま記録にしません。必ず人が確認します。

AI音声入力の流れ 職員が話してメモし、AIが整え、人が確認して記録に反映する流れと各担当者 ① 話す メモを話す ② 整える 読みやすく整理 ③ 確認 人が読んで確認 ④ 反映 記録に反映 担当者 担当の職員 AIツール 管理者または 指名した職員 担当の職員 AIが整えた文章は、そのまま記録にしません
AIが整えた文章は、必ず管理者または指名した職員が確認してから記録に反映します。

移行の進め方と、現場の反発を抑えるコツ

いきなり全員に切り替えると、現場は混乱します。次の順で進めます。

  1. 1つのフロアや、1つの場面(例:夜勤の記録)で試す。
  2. 試す職員は、希望者から選ぶ。
  3. 期間を決めて、紙との併用期間を置く。
  4. 困ったことを集め、ルールを直す。
  5. 問題がなければ、他の職員へ広げる。

反発を抑えるコツは、「記録が楽になる点」を先に見せることです。たとえば、同じ内容を2回書く手間が減るかを一緒に確かめます。

介護テクノロジー導入の補助金(国と都道府県の仕組み)

注意

使える可能性はありますが、受付期間は都道府県で違います。まず、所在地の都道府県の窓口に聞いてください。

介護記録ソフトなどの導入には、要件を満たせば補助を受けられる可能性がある事業があります。国が制度を作り、都道府県が実施します。申請先は都道府県です。

重点的に支援する機器

国の資料では、見守り機器、介護記録ソフト、インカム(職員どうしの連絡用の機器)を集中的に支援するとしています。

令和7年度の国の追加の予算で示された事業です。窓口で聞くときの正式名は「介護テクノロジー導入・協働化・経営改善等支援事業」です。[出典:厚生労働省老健局高齢者支援課(2026)]

これは令和7年度補正予算の事業のうち、介護テクノロジー等導入の負担割合です。補助の対象になった場合、事業者の負担は5分の1です。残りは国と都道府県が負担します。

補助の対象になるかは要件によります。実際の金額は、製品や対象の機器、条件で変わります。

今申請できるかは、都道府県ごとに受付期間が違うため、ここでは言えません。所在地の都道府県の担当窓口に確認してください。

令和8年度分について確認できたのは、国の概算要求(予算成立前の要求段階)の資料です。成立した内容や公募時期は、都道府県の窓口で確認してください。[出典:厚生労働省老健局(2025)]

よくある質問

記録の質、補助金、AIの確認については、次の4点を押さえれば足ります。

Q. 手書きのままでも問題ありませんか?

手書きでも記録は残せます。ただし、読みやすい字で書き、続けて書いた読みにくい走り書きや略字は避けます。多くの職員が読むため、読めない字は情報共有の妨げになります。書き方ルールは、手書きでも同じです。

Q. 文章が苦手な職員には、どう教えればよいですか?

文章の書き方を教えるより、型を渡します。選ぶ式の項目と、よく使う表現のリストを用意します(文章が苦手な職員・新人・外国人職員向けの「入力の型」)。「見たことだけを書く」ことを、場面別の例文で見せるのが近道です。

Q. AI入力の内容は、誰が確認しますか?

最終確認は、人が行います。確認者は、管理者または指名した職員にします。誰が確認するかは、使い始める前に決めておきます。個人情報の扱いも、同時に決めます。

Q. 補助金は、どこに聞けばよいですか?

申請先は、事業所がある都道府県です。受付期間は都道府県ごとに異なります。要件を満たせば受けられる可能性があるため、まず担当窓口に確認してください。[出典:厚生労働省老健局高齢者支援課(2026)]

まとめ

介護記録は、職員の文章力に頼らず、会社の仕組みで揃えます。今日からできることは3つです。

今日からできる3つ

  1. ルールを1枚にまとめる:書き方ルール6つを、記録を書く場所に貼る。
  2. 型を作る:選ぶ式の項目と、よく使う表現のリストを用意する。
  3. 記録時間を測る:数名の職員に、1週間メモしてもらう(自社の記録時間を測る手順)。

最後に、社長の疑問3つへの短い答えです。

  • 書き方を教えれば揃いますか? 教えるだけでは揃いにくいです。型・ルール・ツールを組み合わせます。
  • 費用と補助金は? 費用は製品で変わります。補助は要件を満たせば受けられる可能性があります。補助の対象となった場合、令和7年度補正予算の事業では、介護テクノロジー等導入の事業者負担は5分の1とされています。申請先は都道府県です。
  • 記録が不正確だと? 事故や苦情の場面で、事実を示して説明しにくくなることがあります。

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