この記事でわかること
- 事務は「手順が決まった手作業」から任せるのが、失敗しにくい進め方です。
- 任せるかどうかは「決まった型か」「人が確かめやすいか」「間違えたときの影響」で見分けます。
- 最初の1業務を決め、AIに任せる部分と人が確認する部分を書き出して、小さく試します。
事務のAIは、決まった型で人が確かめやすい作業から任せます。任せやすい事務の見分け方と、最初の1業務を選ぶ5ステップを解説します。

この記事でわかること
結論から言うと、AIをまだ入れていない会社が多数派です。手作業が多く残る会社も少なくありません。だから、事務の手作業に絞って始める意味があります。
中小企業基盤整備機構の調査では、AIを導入している中小企業は20.4%でした。「一部の業務で導入」と「全社的に導入」の合計です。[出典:中小企業基盤整備機構(2026)]
調査は2025年11月から12月に行われ、有効回答は1,668社です(AIの導入状況の設問に答えたのは1,647社)。
手作業の多さも見ておきます。同じ調査で、ITを導入済みの922社を見ると、業務の8割以上が手作業の会社は20.2%でした。[出典:中小企業基盤整備機構(2026)]
最も多かったのは、手作業が60〜79%の会社で31.5%です。ITを入れた会社でも、手作業は残っています。
では、AIを使う会社は何を目的にしているのでしょうか。中小企業庁の白書によると、AI活用に取り組んだ事業者の84.5%が「業務時間の節減」を挙げました。[出典:中小企業庁(2026)]
対象は取り組んだ1,685事業者で、複数回答です。「人手不足の解消」は40.5%でした。
一方で、費用の心配があります。先ほどの中小機構の調査では、AI導入の阻害要因で「導入にあたっての高コスト」が最も高く、46.9%でした。[出典:中小企業基盤整備機構(2026)]
だから、最初から大きく投資せず、1つの業務で小さく試すのが現実的です。具体的な進め方はステップ1:事務の作業を書き出すから始まります。
メモ
総務省の白書には、デジタル化に取り組み始めた従業員10名以上の中小企業(162社)のうち、生成AIを「積極的に活用する」「領域を限定して利用する」方針の合計が58.1%という数字があります。これは方針であり、導入している割合ではありません。[出典:総務省(2026)]
結論は次のとおりです。決まった型で、ルールがはっきりし、結果を人が確かめやすい作業は任せやすい作業です。判断、例外、気持ちへの配慮、大事な個人情報が絡む作業は人が持ちます。
下の表で、任せやすさを3つに分けて示します。
| 区分 | 事務の例 | 人が見る点 |
|---|---|---|
| 任せやすい | データ入力・転記、書類の読み取り、集計、議事録の作成 | 数字の転記ミスや読み取りミスがないか |
| 下書きまで任せて人が承認 | メール・文書の下書き、問い合わせ対応の下書き | 言い回し、相手への配慮、事実の誤り |
| 人が主役 | 契約、採用、顧客への最終回答、感情への配慮が要る対応 | 判断そのもの。AIは材料を出すだけ |
任せやすいのは、毎回ほぼ同じ手順でできる作業です。例は、請求書や申込書の内容を入力する転記、紙の書類の読み取り、数字の集計です。
会議の議事録づくりや、メール・文書の下書きも向いています。問い合わせへの返事の下書きも同じです。
逆に、経験や勘に頼る作業や、例外が多い作業は向きません。見分けるときは、まず「型が決まっているか」を問います。
契約、採用、お客様への最終回答は、AIには「案づくり」までを任せます。決めて送るのは人です。AIの出力は、人が最終確認してから使うと決めておくと安心です。
紙の文字を読み取ってデータにする仕組み(AI-OCR)の結果も、目視で確かめます。
道具は大きく3つあります。パソコン上の決まった作業を自動で繰り返す仕組み(RPA)は、ルールどおりの定型処理が得意です。
AI-OCRは、手書きの帳票などを読み取ります。文章を作ったり要約したりするAI(生成AI)は、文書づくりに向きます。
AI-OCRで読み取り、RPAで社内のシステムへ転記する、といったつなぎ方もあります。選ぶときは、精度、運用のしやすさ、費用を比べます。申し込む前に、試せる期間(トライアル)があるかも確かめます。
注意
AI-OCRの読み取り結果は、そのまま使わず人が目で確かめる前提にします。確認の時間もあらかじめ見込んでください。
結論として、5つのステップで、社長が自分で1業務に絞って小さく試せます。IT担当がいなくても回しやすい進め方です。
進め方の役割は次のとおりです。実際に動かす担当者は1人だけ決めます。社長は、業務を「選ぶ」ことと、続けるかやめるかを「決める」ことを受け持ちます。
週に何度もやっている事務を、付箋やメモに挙げます。「聞く・書く・決める」のように、作業の単位に分けて書くのがコツです。
「経理」のように大きく書かず、「請求書の金額をシートに写す」と細かくします。細かく書くほど、AIに任せられる部分が見えてきます。
書き出した作業を、次の4つの基準で見比べます。
件数が多く、ミスの影響が小さく、確認しやすい作業を上位にします。いちばん上の1つが、最初に試す業務です。
選んだ1業務を「受け取る→読み取る・転記する→照合する→決める」の流れに分けます。そのうえで、どこまでをAIに任せるかを決めます。
例えば、転記はAIに任せ、金額や宛先の照合は人が行います。最後に決めるのも人です。
書き込み欄
線の引き方は、AIと人の役割の分け方の考え方と同じです。
ツールを入れる前に、業務の流れを見直します。無駄な手順が残ったままでは、AIを入れても楽になりません。
申請書などの様式を整えると、AI-OCRの読み取りミスを減らしやすくなります。紙の様式を整えるだけで、あとの手間が変わる場合があります。
1人、1業務、短い期間で試します。試す前と後で、かかった時間と間違いの数を比べてください。
AIを使う目的は、業務時間の節減が中心です。だから、時間を測っておくと判断しやすくなります。
うまくいけば、同じ型で他の業務に広げます。これを横展開といいます。時間の削減に加え、人による品質のばらつきや、特定の人しかできない状態(属人化)を減らせる場合があります。人手不足への備えにもつながります。
結論として、情報漏えいを防ぐ線引きは、試す前に1枚で決めておきます。ツールごとに設定は違うため、ここでは一般的な注意にとどめます。
次のチェックリストで、試す前に決めたことを確かめてください。
注意
入力した内容の扱いは、ツールや設定によって違います。使う前に、設定と利用条件を必ず確認してください。
結論は、入れただけでは使われないということです。続かない原因としてよく挙がるのは、使い方の研修が足りない、活用例が少ない、推進する人がいない、社長の発信が足りない、の4つです。
IPAの調査に参考になる数字があります。DXに取り組んでいない従業員100人以下の企業が理由に挙げたのは、「自社がDXに取り組むメリットがわからない」が54.0%で最も高い結果でした。[出典:情報処理推進機構(2026)]
対象は、DXに取り組んでいない企業です。導入後の定着を調べた数字ではありませんが、メリットが見えないことが最初の壁になりやすいと考えられます。
| 原因 | 対策 |
|---|---|
| 使い方の研修が足りない | 短い勉強会を開き、担当者が実際に手を動かす場を作る |
| 活用例が少ない | 自社の業務に近い使い方を、1つずつ見せる |
| 推進する人がいない | 担当者を1人決め、社長がその人に時間を渡す |
| 社長の発信が足りない | 試す理由と結果を、社長が自分の言葉で社内に伝える |
社内だけで抱えると、日々の仕事に押されて止まりがちです。外部の力を借りて、一緒に回す考え方もあります。
Q1. うちの事務のうち、どれをAIに任せてよいですか?
決まった型の作業で、結果を人が確かめやすいものから任せます。詳しくはAIに任せやすい事務と、人が確認すべき事務はどう見分けるかで説明しました。
Q2. 最初に何を選べば失敗しにくいですか?費用をかけずに試せますか?
件数が多く、ミスの影響が小さい作業を選びます。AI導入の壁は高コストと答えた中小企業が、先ほどの調査で46.9%でした。そのため、1人・1業務の小さな試行から始めてください。選び方はステップ2:4つの基準で候補を並べるにあります。
Q3. IT担当がいなくても続けられますか?
続けやすくする方法があります。担当者を1人決め、社長は選ぶことと、続けるかを決めることを受け持ちます。迷ったときは、外部の伴走支援も使えます。
Q4. 情報漏えいが心配です。どうすればよいですか?
入力してよい情報を、試す前に決めてください。チェックリストは試す前に決めておく社内ルールのチェックリストにあります。
Q5. 助成金は使えますか?
要件を満たせば、受給できる可能性がある制度もあります。ただし、使えるかどうかは条件で変わります。制度は終了や内容の変更がある場合もあるため、申請の前に、最新の募集要項を確認してください。
最初の1業務の選び方を、一緒に整理することもできます。