この記事でわかること
- 請求書のAIは、入力・作成・チェックのうち1作業から試します。
- AIは読み取りと下書きを担当し、金額・振込先・登録番号は人が確かめます。
- 会計ソフトを替えなくても、PDFの請求書の読み取りやチェックから始められる範囲があります。
請求書のAIは、入力・作成・チェックから1作業だけ試します。AIは読み取りと下書き、金額・振込先・登録番号は人が確認。選び方と5ステップを解説。

この記事でわかること
全部を一度に任せず、1作業を選んで小さく始めるのが近道です。同じ請求書の仕事でも、入力・作成・チェックでAIの役割は変わります。
結論
請求書のAIは「受け取る請求書の入力」「出す請求書の作成」「中身のチェック」から1つだけ選んで試します。
経理全体のAIの始め方は、こちらで整理しています。経理のAIは何から任せる?小さく始める5ステップ
AIを使う会社は、まだ多数派ではありません。中小企業基盤整備機構の調査で、AIを「既に導入している」会社は20.4%です。[出典:中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査(令和8年3月)」(2026)]
この調査は、東京商工リサーチのデータから選んだ中小企業が対象です。回答は1,647社分で、実施は2025年11月17日〜12月12日です。
また、2019年以降の省力化投資でAI活用に「取り組んだ」会社は約3割でした。対象は5,645社です。[出典:中小企業庁「2026年版 中小企業白書」(2026)]
AIに取り組んだ会社に目的を聞くと、「業務時間の節減」が84.5%でした。対象はAIに取り組んだ1,685社で、複数回答です。[出典:中小企業庁「2026年版 中小企業白書」(2026)]
まだ始めていなくても、焦る必要はありません。まず1作業を試せば十分です。
AIができるのは、読み取り、仕訳の提案、下書き、チェックの4つです。ただし結果はそのまま使わず、人が確かめます。
次の表は、作業ごとにAIができることと、人が見ることをまとめたものです。
| 作業 | AIができること | 人が見ること |
|---|---|---|
| 受け取った請求書の読み取り | 紙やPDFの文字を読み取り、データにする | 金額・振込先・登録番号・支払期日が合っているか |
| 仕訳の提案 | 取引先ごとの過去の処理から、勘定科目の候補を出す | 候補が会社のルールに合うか |
| 出す請求書の下書き | 過去の請求書をもとに、明細や単価の案を作る | 金額・税率・宛先・日付 |
| 中身のチェック | 必須項目の抜けや、金額と税率のずれを探す | AIの指摘が正しいか。税務の判断 |
仕訳の提案は、手順の章で詳しく説明します。
読み取りには、紙の文字を読み取ってデータにする仕組み(OCR)にAIを組み合わせたAI-OCRを使います。昔のOCRは、決まった書式が得意でした。AI-OCRは、取引先ごとに書式が違う請求書でも読み取りやすくなっています。
ただし、読み取りは100%ではありません。手書き、かすれ、押印の重なり、スキャンの傾きがあると読み間違えやすくなります。
メモ
AI-OCRとは、AIの力で文字を読み取る仕組みです。「OCR」は、紙の文字をデータにする技術の呼び名です。
AI-OCRの考え方は、こちらも参考になります。AI-OCRとは|紙の文字をデータにする「OCR+AI」のこと
過去の請求書をもとに、明細や数量、単価の案をAIに出してもらえます。たとえば、毎月同じ取引先に出す請求書なら、前月の内容を土台に下書きを作れます。
下書きはあくまで案です。金額や税率は、人が必ず見直してから送ります。
文章を作るAI(生成AI)に、請求書の中身を見てもらう使い方もあります。必須項目が抜けていないか、金額と税率が合っているかを確かめてもらいます。
ここでも、AIの答えをそのまま正式な書類にはしません。税務の判断はAIに任せず、人が行います。入れてよい情報の社内ルールは、ステップ4:PDFの請求書のデータを残すルールとつなぐの前後で説明します。
月の枚数、1枚にかかる時間、間違えたときの困り方の3つで並べると、選びやすくなります。経理が1〜2人の会社(社長や家族の兼務を含む)を想定しています。
3つの作業を、次の3つの目で見比べます。
| 作業 | 月の枚数 | 1枚の時間 | 間違えたときの困り方 |
|---|---|---|---|
| 受け取る請求書の入力 | 自社で数える | 自社で測る | 支払いの間違いにつながる |
| 出す請求書の作成 | 自社で数える | 自社で測る | 取引先の信用に関わる |
| 中身のチェック | 自社で数える | 自社で測る | 見落としが後で見つかる |
枚数や時間は会社ごとに違うため、自社の数字で選びます。
減らしたいものも考えます。手入力の転記、入力ミス、確認の負担のうち、いちばん困っているものから選びます。
ITを入れても、手作業が減らない会社は少なくありません。ITを導入済みの中小企業で、手作業の比率が「60〜79%」の会社は31.5%で、最も多い区分でした。[出典:中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査(令和8年3月)」(2026)]
「80%以上」の会社も20.2%あります。対象はITを導入済みの922社です。[出典:中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査(令和8年3月)」(2026)]
AI導入の壁として最も多いのは、「導入にあたっての高コスト」の46.9%です。複数回答で、この設問の回答は1,636社でした。[出典:中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査(令和8年3月)」(2026)]
だからこそ、いきなり高いツールを入れず、1作業から試します。
試す前に、ふだんの数字を測っておきます。測っておかないと、あとで効果を比べられません。
測っておくこと
選んだ1作業を、AIと人の分担を決めて小さく試します。流れは5つのステップです。
まず、試す作業を1つだけ決めます。選び方は、試す前に測っておくことで測った数字をもとにします。
決めたら、ふだんの枚数と1枚の時間を紙に書いておきます。これが、あとで続けるか決める基準になります。
AIには読み取りと下書きを任せ、お金に関わる項目は人が見ます。次の表のように、項目ごとに分けておきます。
| 項目 | 担当 | 理由 |
|---|---|---|
| 文字の読み取り | AI | 手入力の転記を減らせる |
| 請求書の下書き | AI | 案を出すだけなら任せやすい |
| 金額・税率 | 人 | 間違えると支払いや申告に響く |
| 取引先・振込先 | 人 | 間違うと別の相手に払うおそれがある |
| 登録番号・支払期日 | 人 | 制度や期限に関わる |
| 税務の判断 | 人 | AIに任せない |
会計ソフトを入れていない会社でも始められます。表計算ソフトで請求書を作っている会社なら、今のファイルはそのまま使います。PDFの請求書の読み取りやチェックから試せば、ツールを替えずに済みます。
注意
請求書には、取引先の名前や口座などの情報が入っています。AIに入れてよい情報かどうか、先に社内のルールを決めます。
最初は、少ない枚数で試します。AIの結果を、元の請求書と1枚ずつ見比べます。
読み間違えやすいのは、手書き、かすれ、押印の重なり、傾いたスキャンです。こうした請求書を混ぜておくと、AIの苦手な所が早く分かります。
間違いを見つけたら、どの項目でどう間違えたかを記録します。記録が増えると、人が見る場所を絞れます。
PDFで受け取った請求書は、AIで読み取るだけでは足りません。データそのものを、決まりに沿って保存する必要があります。
国税庁のページには、PDF等で受け取った請求書は紙に印刷しても、データ自体を保存する必要があるとあります。[出典:国税庁「【国税庁の取組紹介】電子帳簿保存」]
例外もあります。令和6年1月1日以後の電子取引は、2つの条件をどちらも満たせば、データを単に保存しておけば足ります。
1つ目は、要件どおりに保存できなかったことに、税務署長が相当の理由があると認める場合です。2つ目は、税務調査でデータのダウンロードと、印刷した書面の提示を求められて応じられる場合です。[出典:国税庁「【国税庁の取組紹介】電子帳簿保存」]
国税庁のページには、更新日の表示がありません。自社の場合にどうなるかは、税理士か税務署に確かめてください。
インボイス制度が始まり、請求書の処理は複雑になりました。だからこそ、読み取りの流れと保存のルールをセットで決めておきます。
試した作業が落ち着いたら、仕訳と承認を足します。足すのは、必要になってからで構いません。
取引先ごとの仕訳ルールを覚えるツールもあります。次からは、確認して登録するだけになります。また、二重チェックや承認の流れを組み込めるツールもあります。
出す請求書の流れ全体を見直したいときは、こちらをどうぞ。請求書の自動化は1作業から。流れ全体の見直し方
試したあとは、時間が減ったか、確認の手間が増えていないか、間違いが減ったかで判断します。ステップ1で書いた数字と、試したあとの数字を比べます。
次のチェックリストで、続けるかどうかを確かめてください。
すべて「はい」なら、続ける価値があります。「いいえ」が多ければ、作業を替えるか、やめる判断もあります。
試したあとにツールを選ぶ段階になったら、次の点を比べます。製品名で選ぶ前に、自社に必要な点を決めます。
| 比べる点 | 見ること |
|---|---|
| 手書き・非定型への対応 | 書式がばらばらの請求書を読み取れるか |
| 会計ソフトとの連携 | 今使っている会計ソフトとつながるか |
| ファイルの形式 | 自社の請求書の形式(PDFなど)に対応するか |
| 確認の体制 | 読み取り結果を確認する仕組みや、代行があるか |
社内に詳しい人がいなければ、外部の伴走支援を使う方法もあります。選ぶ点や試し方を、一緒に整理してもらえます。
社長からよく出る5つの疑問に答えます。
Q1:請求書の仕事のうち、どれからAIに任せればよいですか。
A:月の枚数、1枚の時間、間違えたときの困り方で並べて選びます。選び方は、入力・作成・チェックのどれから試すかで説明しました。
Q2:AIが読み取った金額や振込先が間違っていたらどうなりますか。
A:そのまま使うと、支払いの間違いにつながります。金額や振込先は人が元の請求書と見比べます。やり方は、ステップ3:少ない枚数で試し、AIの結果を人が確かめるで説明しました。
Q3:会計ソフトを替えたり高いツールを入れたりしないと始められませんか。
A:始められます。PDFの請求書の読み取りやチェックなら、今のソフトのまま試せる範囲があります。
Q4:PDFで受け取った請求書は、AIで読み取ったら紙に印刷しなくてよいですか。
A:国税庁のページには、紙に印刷しても、データ自体を保存する必要があるとあります。例外の条件もあります。自社の場合は、税理士か税務署に確かめてください。[出典:国税庁「【国税庁の取組紹介】電子帳簿保存」]
Q5:社内に詳しい人がいなくても始められますか。
A:始められます。1作業だけを少ない枚数で試せば、特別な知識は要りません。迷うときは、外部の伴走支援に相談する方法もあります。