経理DXとは?最初の1つを選ぶ5ステップと人の確認

経理DXは「二重入力を減らす」ことです。請求書・経費・入出金を4つの物差しで比べて最初の1つを選び、機械と人の線引きと5ステップを社長向けに解説します。

この記事でわかること

  • 経理のDXは、紙をPDFにすることではありません。同じ情報を二重に入力する手間を減らすことです。
  • 最初の1つは、請求書・経費・入出金を「件数・時間・ミスの痛さ・取引先への影響」で比べて決めます。
  • 読み取り・転記・照合は機械、金額の妥当性・支払いの承認・例外は人。この線引きを先に決めます。

経理のDXとは?会計ソフトがあっても「紙をPDFにする」だけでは足りない理由

経理のDXかどうかは、二重入力が減ったかで決まります。 会計ソフトを入れていても、PDFの請求書を見て手で打ち直していれば、手間は変わりません。

一創は、紙の請求書をPDFにするだけでは経理DXではないとしています。判断基準は、同じ情報を二重に入力する箇所が減ったかどうかです。[出典:一創「経理DXとは?経理業務の効率化・自動化の進め方と対象業務の優先順位」(2026)]

電子化とDXはどこが違うか

電子化は、紙をデータに変えることです。DXは、データになった情報が入力し直されずに流れるよう、業務の順番を組み替えることです。

たとえば、メールで届いたPDFの請求書を会計ソフトに手で打ち込むとします。紙はなくなっても、入力は1回増えたままです。

マネーフォワードも、紙をPDFに変えるだけでは作業時間が減りにくいと説明しています。業務の流れを組み替えるところから経理DXが始まる、という考え方です。[出典:マネーフォワード「経理DXの事例とは?中小企業が経費精算から始める進め方」(2026)]

メモ

国税庁は、PDFなどで受け取った請求書を紙に印刷しても、データ自体もルールに基づいて保存する必要があると案内しています。「印刷して終わり」にはなりません。[出典:国税庁「【国税庁の取組紹介】電子帳簿保存」(2026年10月閲覧)]

経理でDXが求められる背景と、今の困りごと

背景には、電子帳簿保存法とインボイス制度への対応があります。DX Journalは、人手不足やテレワークの広がりも挙げています。[出典:DX Journal「経理DXの進め方5ステップとは メリットや成功事例も解説」(2025)]

今の困りごとは、3つに分けられます。1つ目は、手入力と転記が多いことです。2つ目は、紙とハンコの承認が残っていることです。3つ目は、特定の担当者に仕事が集まることです。[出典:フリー「経理のDXはなぜ必要?メリットや進め方を解説」(2024)]

進めた先のメリットは、3点に絞れます。二重入力が減る、担当者への依存が減る、月次の締めが早まる、の3つです。

会社の規模で見ると、従業員100人以下の企業のうち、何らかの形でDXに取り組んでいる割合は41.6%です。調査全体の回収は国内企業1,799社で、41.6%はそのうち従業員100人以下の企業での割合です。調査期間は2026年4月17日〜6月12日です。[出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「DX動向2026 広がるAI導入、DXは変われるか」(2026)]

DXに取り組んでいない100人以下の企業が挙げた理由で最も高いのは、「自社がDXに取組むメリットがわからない」の54.0%です。この記事は、その「わからない」に、経理の具体的な作業で答えます。[出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「DX動向2026 広がるAI導入、DXは変われるか」(2026)]

最初の1つはどれ?請求書・経費・入出金を4つの物差しで比べる

最初の1つは、自社の3つの作業を同じ物差しで並べて決めます。 物差しは、毎月の件数、毎月かかる時間、ミスが起きた時の痛さ、取引先を巻き込むかの4つです。

上位の解説は「時間のかかる業務から」「経費精算から」と言うものが多くあります。ここでは、自社の数字で選べるよう表にしました。

マネーフォワードは、最初の一歩として、時間のかかっている業務を選ぶことを勧めています。一創は、優先候補として経費精算と受領請求書の処理を挙げています。[出典:マネーフォワード「経理DXの事例とは?中小企業が経費精算から始める進め方」(2026)][出典:一創「経理DXとは?経理業務の効率化・自動化の進め方と対象業務の優先順位」(2026)]

4つの物差しで3つの作業を採点する

次の表の空欄に、自社の数字を書き込みます。数字は、直近の数か月を見て、担当者に聞いて埋めます。

作業毎月の件数毎月かかる時間ミスが起きた時の痛さ取引先を巻き込むか向いている会社の目安
請求書の発行・受領(自社で記入)(自社で記入)支払いの誤りや遅れにつながる巻き込む(書式や送り方が変わる)受け取る請求書の転記が重い会社
経費精算(自社で記入)(自社で記入)立替金の誤りは社内で直しやすい巻き込まない(社内で完結)社員が多く、申請の差し戻しが多い会社
入出金の確認・消込(自社で記入)(自社で記入)入金の見落としは回収の遅れにつながる巻き込む(振込名義や入金の確認)取引先の数が多く、照合に時間がかかる会社

採点は、4つの列を「多い・重い・痛い・巻き込む」の度合いで見ます。件数と時間が大きく、取引先を巻き込まない作業は、試しやすい作業です。

参考までに、マネーフォワードが紹介する導入事例があります。従業員31名のUcarPACは、請求書の受領が月平均30件ほどで、転記に1〜2営業日かかっていました。ベンダーが自社サービスの事例として載せたもので、他の会社に当てはまるとは限りません。[出典:マネーフォワード「経理DXの事例とは?中小企業が経費精算から始める進め方」(2026)]

迷ったときの決め方

迷ったら、件数の多い定型業務を選びます。手順が決まっていて、毎月くり返す作業ほど、試した効果が見えやすいからです。

法対応の期限があるものは、先に手を付けます。DX Journalは、優先順位を付ける基準に、費用対効果、ボトルネック、課題の深刻度、法対応の期限を挙げています。[出典:DX Journal「経理DXの進め方5ステップとは メリットや成功事例も解説」(2025)]

道具の種類は後から選ぶ

道具は、最初の1つが決まってから選びます。種類は、会計ソフト、経費精算、請求書の発行・受領、紙の文字を読み取ってデータにする仕組み(OCR)、決めた手順を自動で繰り返すソフト(RPA)、申請と承認の流れを管理するワークフローなどです。[出典:DX Journal「経理DXの進め方5ステップとは メリットや成功事例も解説」(2025)]

あわせて読みたい:経理のAIは何から任せる?小さく始める5ステップ

機械に任せる所と、人が確認する所をどう分ける?

読み取り・転記・照合は機械、金額の妥当性・支払いの承認・例外は人が見ます。 判断が要る会計処理は、担当者と顧問税理士で決めます。

作業ごとの線引き表

一創は、定型仕訳、入金消込、経費規程のチェック、支払データの作成を、自動化しやすい業務としています。一方で、引当金の見積もり、減損の判断、会計方針の選択は、担当者と顧問税理士・監査人の領域として残ります。[出典:一創「経理DXとは?経理業務の効率化・自動化の進め方と対象業務の優先順位」(2026)]

この区分をもとに、作業ごとに分けた表を作りました。自社の運用に合わせて直して使ってください。

作業機械に任せる所人が確認する所顧問税理士に相談する所
請求書の受領文字の読み取り、会計ソフトへの転記金額の妥当性、支払いの承認勘定科目や税区分で迷うとき
経費精算領収書の読み取り、経費規程とのチェック私用の混在、規程に合わない申請判断が分かれる経費の扱い
入出金の確認・消込入金と請求の照合、候補の提示一致しない入金、取引先との例外貸倒れや特別な処理が出たとき

注意

電子取引のデータは、保存の要件を満たして残す必要があります。国税庁のパンフレットでは、基準期間(2年(期)前)の売上高が5,000万円以下の方等は、税務調査等でのダウンロードの求めに応じられれば「日付・金額・取引先」の検索要件が不要になる一方、改ざん防止の措置(事務処理規程の策定などで対応可)と、ディスプレイ・プリンタ等の備付けは引き続き必要とされています。自社がどの要件に当たるかは、最新の案内で確かめてください。[出典:国税庁「電子取引データを適切に保存できていますか?」(2024)]

生成AIは入口でどこまで使うか

生成AIの役目は、下書き、読み取り、照合の候補出しまでです。最終の承認は、人が行います。

生成AIを導入している企業は、2025年度に44.0%でした。全規模の数字で、中小企業に限った数字ではありません。[出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「DX動向2026 広がるAI導入、DXは変われるか」(2026)]

中小企業のDXの取組み・検討内容で「AIの活用」を挙げた割合は、28.4%です。前回調査は14.3%でした。対象は中小企業1,000社で、調査は2025年12月5日〜18日に行われました。[出典:中小企業基盤整備機構「中小企業のDX推進に関する調査(2025年)アンケート調査報告書」(2026)]

請求書や領収書をAIに渡すときは、渡してよい情報の範囲を先に決めます。取引先の情報や口座の情報を、社外のサービスに入れてよいかを確かめます。

顧問税理士にはどこまで渡すか

顧問税理士には、判断が要る会計処理を渡します。引当金の見積もりや、会計方針の選択がその例です。

読み取りや転記は、自社の側で機械に任せて構いません。税理士には、機械が整えたデータを渡し、判断だけを相談すると、やり取りが減ります。

自社の経理で人が確認する所を整理したい場合は、カクヤクAIXにご相談ください。最初の1つを決める前の整理から、一緒に進められます。

経理DXの始め方:最初の1つを動かす5ステップ

始め方は、洗い出し、1つ選ぶ、小さく試す、測る、広げるの順です。 各ステップに、人が確認する点を1つずつ置きます。

始める前に用意するもの

  • 直近数か月の請求書・領収書・入出金の記録
  • 経理担当者が今やっている作業のメモ
  • 顧問税理士に確認したいことの一覧

次のチェックリストで、始める前の準備を確かめてください。

  • 経理の作業を、担当者が書き出せる状態になっている
  • 担当者が休んでも、手順を見れば別の人が進められる
  • 紙の提出を、当面は併用してよいと決めている
  • 最初に試す期間を、1か月などと区切れる

今の作業を書き出して時間と件数を数える

請求書、経費、入出金の3つについて、毎月の件数と、かかる時間を数えます。DX Journalは、業務の棚卸しで集めた時間や件数を、効果測定の基準値にするとしています。[出典:DX Journal「経理DXの進め方5ステップとは メリットや成功事例も解説」(2025)]

経理担当が1人の会社では、担当者の休みを想定して、手順を書き出しておきます。これが、休みや退職で止まらないための最初の備えです。

売上高1千万円以下の事業者の79.4%は、1人で経理事務を行っています。対象は907者で、従業員10〜50名の会社全体の数字ではありません。[出典:日本商工会議所・東京商工会議所「中小企業におけるインボイス制度等に関する実態調査結果」(2025)]

最初の1つを選び、人の確認ポイントを決める

選び方は、最初の1つはどれ?請求書・経費・入出金を4つの物差しで比べるの表を使います。選んだら、金額の妥当性、支払いの承認、例外の扱いを、誰が見るか決めます。

経費精算から始める場合は、こちらも参考になります:経費精算とは?1人経理でも回す最小の流れ

担当者・税理士・取引先に伝える

始める前に、担当者、顧問税理士、取引先に伝えます。jinjer Blogは、関係部署や取引先へ事前に周知し、承諾を得ることを注意点に挙げています。[出典:jinjer Blog「DXで経理業務を効率化!導入事例や注意点について解説」(2025)]

マネーフォワードは、紙の提出を当面併用する方法も選択肢だとしています。取引先に無理に切り替えてもらわず、受け取り方を併用して移ります。[出典:マネーフォワード「経理DXの事例とは?中小企業が経費精算から始める進め方」(2026)]

1か月だけ小さく試す

選んだ1つの作業だけ、1か月ほど試します。マネーフォワードは、低コストのツールで試すことを勧めています。[出典:マネーフォワード「経理DXの事例とは?中小企業が経費精算から始める進め方」(2026)]

試す間は、機械が出した結果を、人が確かめます。間違いや例外が出たら、その場で記録しておきます。

削減できた時間を測って、次に進むか決める

効果は、削減できた時間で測ります。マネーフォワードは「削減できた時間(月)× 想定時給 = 月あたりの削減額」という式を示しています。[出典:マネーフォワード「経理DXの事例とは?中小企業が経費精算から始める進め方」(2026)]

効果の例として、マネーフォワードが自社サービスの導入事例として紹介するFOR YOU(社員40名超)は、月次決算の締めが従来の60日程度から、4分の1程度まで短縮されたと語っています。ベンダーが載せた本人談で、他の会社で同じになるとは限りません。[出典:マネーフォワード「経理DXの事例とは?中小企業が経費精算から始める進め方」(2026)]

効果が見えたら、次の作業へ広げます。見えなければ、やり方を直すか、やめる判断をします。

つまずきやすい失敗と対策

つまずきの多くは、ルールを決めずに道具だけ入れることから起きます。 起きることと原因を知っておけば、先に手を打てます。

SHIFT AIとマネーフォワードの解説をもとに、5つにまとめました。

失敗起きること原因対策
ツール導入ありき目的が曖昧なまま、使われなくなる解決したい作業を決めていない先に「最初の1つ」を選ぶ
Excelに戻る会計ソフトを入れても、表計算に戻る業務フローと承認ルートを見直さなかった承認の流れも一緒に組み替える
担当者だけで抱える担当者が休むと止まる手順が頭の中にしかない手順を書き出し、別の人も見られるようにする
一度に全社へ広げる現場が混乱し、以前のやり方に戻る試す範囲を決めていない協力的な部署から小さく始める
例外処理を決めない想定外のエラーで混乱する例外のルールを決めないまま運用した例外は人が見ると先に決める

「Excel戻り」と、自動化で仕訳を処理した後の混乱は、SHIFT AIが挙げる失敗事例です。原因は、前者が業務フローと承認ルートの見直し不足、後者が例外処理ルールの未定義だと説明されています。[出典:SHIFT AI「経理DXの失敗事例と原因を徹底解説|再起動に必要な3ステップとAI活用のポイント」(2026)]

請求書の流れを見直す場合は、こちらも参考になります:請求書の自動化は1作業から。流れ全体の見直し方

全社に一度に広げると現場が混乱し、以前のやり方へ戻る動きが起きやすい、とマネーフォワードは述べています。[出典:マネーフォワード「経理DXの事例とは?中小企業が経費精算から始める進め方」(2026)]

よくある質問

Q1:会計ソフトを入れていれば、DXは済んでいますか?A:済んでいるとは限りません。二重入力が減ったかどうかで見ます。違いは電子化とDXはどこが違うかで説明しています。

Q2:経理担当が1人でも始められますか?A:始められます。担当者の休みを想定して手順を書き出し、紙の提出を当面併用します。順番はステップ1:今の作業を書き出して時間と件数を数えるにあります。

Q3:AIに任せて、間違った金額を払いませんか?A:支払いの承認は、人が行います。AIは下書きと照合の候補出しまでです。線引きは作業ごとの線引き表にまとめています。

Q4:顧問税理士には何を相談すればよいですか?A:判断が要る会計処理です。引当金の見積もりや会計方針の選択がその例です。渡し方は顧問税理士にはどこまで渡すかで説明しています。

Q5:まず何から始めればよいですか?A:請求書・経費・入出金を4つの物差しで比べ、最初の1つを決めます。表は4つの物差しで3つの作業を採点するにあります。

まとめ:決める3点

  • 二重入力が減る作業を、最初の1つとして選ぶ
  • 読み取り・転記・照合は機械、承認と例外は人と決める
  • 1か月だけ試し、削減できた時間を測って広げるか決める

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